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走れ!バカップル列車
第87号 特急踊り子と天城越え(前編)

みつこ、特急踊り子号に乗る

 いったい誰が現在の二○二○年を想像していただろう。わずか一年前にはまったく考えてもいなかった世の中がいま現実として私たちの前にある。
 新型コロナウイルスといったって、また新種のインフルエンザとか、SARSとか、MEASとか、そんな類いのものだろう。一時的に騒がれても、そのうちみんな忘れてしまうだろう。私自身、そんな風に高をくくっていた。
 ところが、ダイヤモンドプリンセス号が横浜港から動けなくなり、志村けんさん、岡江久美子さんといった著名人が立て続けに亡くなって、ウイルスそのものの怖さ以上に世の中がパニックになってしまった。東京オリンピックが中止になったのには心底驚いた。
 四月、五月ごろは外出するのさえ憚られるような「空気」だった。日本独特の同調圧力というものだ。マスクをつけなければ外にも出られない。マスク越しの呼吸以上に重苦しい「空気」がのしかかる。苦しくて道ばたにうずくまりそうになったのは夏の暑さのせいだけではなかっただろう。
 秋にさしかかるまでいったいなにをしていたのか、あまり思い出せない。気がつけば扇風機を出す前に涼しくなっていた。二○二○年の大部分が空白になったような感覚だ。
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