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走れ!バカップル列車 第2号 箱根登山電車 |
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一 バカップル列車の記念すべき第1号は、久留里線各駅停車であった。浜金谷で電車に乗り遅れそうになったり、みつこさんの腕がジュースでべとべとになったりしたが、まあ楽しかった。 それなりに満足して帰って来たところに、妹ゆかがやって来た。 「ひろさんたちは久留里線に行って、楽しかったみたいで、よかったねえ」 「うん、まあね」 「いいなあ」 「うん、まあね」 「久留里線に行っちゃったから、もうミッフィーのことはどうでもよくなったのう?」 「は?」 「ミッフィーだよ。ミッフィー」 ご存知の方も多いはずだが、ミッフィーとはオランダの絵本作家ディック=ブルーナさんが描くかわいいイラストのうさこちゃんのことである。四月から九月まで箱根彫刻の森美術館でミッフィーの特別展を開催していて、妹ゆかはそれに行きたいと言っている。 「ミッフィーのことはどうでもいいのう?」 本音を言えば、ミッフィーだけのためにわざわざ箱根まで行くのは億劫である。しかも展示は九月まであるのだから、混んでる八月でなくて、九月に行けばいいようなものだが、どうしても八月の土日に行きたいという。なぜかと訊くと、展示会場に臨時郵便局が併設されて、そこから手紙を出すとミッフィーの図柄の消印を押してもらえる。しかもその臨時郵便局は夏休み中の土日だけしか出て来ない。だからどうしても八月の土日に行きたいのだそうだ。 妹ゆかは世間的にはもういい歳なのだが、まだうさこちゃんなんかにうつつを抜かしている。これで大丈夫かと心配になるが、本人はまったく気にしていないようである。兄とその妻をバカップルというのなら、この妹をバカ妹と呼んでもいいんじゃないかと思う。 家に帰ってゆかとのやりとりを妻みつこさんに話してみた。 みつこさんは笑って、 「じゃあ、行きましょう」 と言った。 八月の土日というと、もう空いている日は二十八日と二十九日しかない。日曜日はゆっくり休みたいから、二十八日の土曜日に行こうということになった。 翌日、「みつこさんが行こうって言ってたよ」と伝えると、ゆかは嬉々としてスケジュールを組み始めた。以前なら時刻表をめくって調べたものだが、いまはなんでもインターネットで検索できる。しかも、どこどこに寄りたいと入力すると、その行きたい観光スポットをちゃんと巡るようなスケジュールを自動的に組み立ててくれるホームページまである。 お昼は彫刻の森美術館の中にもレストランがあるのだが、ちょっと趣向を変えて強羅の懐石料理花壇で食べることにした。 そうして、新宿を9時30分の小田急ロマンスカーに乗って、箱根湯本から登山電車に乗り、11時41分に強羅に着いて、懐石料理花壇と彫刻の森に寄って、夕方18時ごろに新宿に着くというスケジュールがだいたい決まった。 私としては登山電車に乗れるのが、何としてもうれしい。考えてみれば、もう十年以上は乗っていない。ミッフィーのために箱根に行くというより、今回は箱根登山電車に乗る旅にしようと私は思った。 ところで懐石料理花壇には予約が必要である。 「そっちの予約は頼むよ」 ゆかが言うので私が電話してみると、 「予約の時間は11時半と1時と1時半になります」 と言う。さっき決まったスケジュールより、ややずれている。どうしようか迷ったが1時とか1時半にすると彫刻の森に行く時間がなくなってしまうので、11時半で予約することにした。 「ゆかさん、予約が11時半になっちゃったよ」 「じゃあ、30分早いロマンスカーで行くことにしよう」 そう言って、ゆかはまたスケジュールを組み直した。 結局、新宿を9時ちょうどに出るロマンスカーに乗って、箱根湯本から登山電車に乗り、11時11分に強羅着。帰りは彫刻の森を15時33分に出る登山電車に乗って、箱根湯本を16時18分のロマンスカーに乗るということに決まった。 ゆかは小田急線の読売ランド前に住んでいるので、ロマンスカーには町田から乗って、帰りも町田で降りることになる。私とみつこさんはロマンスカーに新宿から乗り、ゆかだけが町田から乗る。行き先は箱根湯本で一緒なのだが、そういう風に指定券を取って、席が離ればなれにならないだろうか。 「大丈夫かな?」 「とりあえず駅に行って、できるかどうか訊いてみるよ」 ゆかは、はりきっている。 そのまた次の日、ゆかが「とれたよ」と言う。 買ってきた特急券を見せてもらうと、新宿から箱根湯本までの切符が「はこね9号 5号車 3A・3B」となっていて、町田から箱根湯本までの切符が「はこね9号 5号車 3C」となっている。帰りの「はこね32号」も同じで、三人が隣同士で座れるようになっている。 「よかったね、ゆかさん」 「よかったよ」 かくして、「バカップル+バカ妹」による箱根行き増結編成が完成した。 箱根へ出掛ける日をあと二日に控えた二○○四年八月二十六日木曜日、我が家に大事件が起こった。 自宅が空き巣に入られたのである。 ノートパソコンやビデオカメラも盗られたが、みつこさんがこつこつ買い集めたブランド物の時計や貴金属類がことごとくやられてしまった。私もがっかりしたが、みつこさんの落胆はかなり大きい。見ていて本当に気の毒になる。 「とりあえず、二人とも無事でよかったよ」 「命が助かっただけでも、めっけもんだな」 そう言い合うのだが、やはり盗られた品々のことをつい思い出して、二人とも沈んでしまう。言葉数も少なくなって部屋の雰囲気が暗くなる。 ゆかからも「箱根に行くのは、中止にしようか?」と言われた。 どうしようか。私とみつこさんは一瞬迷ったが、行くことに決めた。たしかに物を盗られたのはショックだけど、だからと言って家に引きこもったって、ますます沈鬱になるばかりである。すぐには元気が出そうもないが、箱根に行けば、少しは気分転換になるだろう。 |
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