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走れ!バカップル列車 第2号 箱根登山電車 |
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二 そうして八月二十八日の朝が来た。空は曇っていて、時々雨がぱらついている。私とみつこさんの気分もなかなか晴れない。それでも予定通り家を出て、京浜東北線と山手線を乗り継いで新宿駅に来た。 小田急線のホームでしばらく待つと、程なくして9時00分発「はこね9号」が入線して来た。車内清掃が済んで乗り込む。座席は特急券に指定された通り、5号車の3Aと3Bである。車両はロマンスカーの中では最も旧式の7000系で、そのためかリクライニングのボタンを押して背もたれを少し傾けようとしてもちょうどいい所で固定されずに戻って来てしまう。 「なんだよ、コレ。うまくいかないよォ!」 みつこさんはいくらやってもうまくいかないので、早くもご機嫌斜めになってしまった。 「なんだよ、もう!」 仕方なく適当なところで固定することにして、みつこさんは発車するなりすぐに眠ってしまった。 車内は土曜日ということもあって、家族連れやおばさんの団体などで賑わっている。前の席には中国人の親子がいて、お母さんがお父さんと息子をビデオカメラで撮影している。よく見ると一昨日盗まれたうちのビデオカメラと同じメーカーのもので形も似ている。そうした様子を見ると、また思い出して腹が立って来てしまう。そんな気持ちは抑えよう抑えようとしながら、外をぼんやり眺める。 ロマンスカーはバカップル第1号で乗った京浜急行の快特に比べてのんびり走る。よく言えば程良い速さだが、悪く言えばたるんでいる。京急の快特は特急料金なしであれだけ速いのに、小田急はゆっくり走って箱根湯本まで特急料金が870円もかかる。 そうこうしながら、実家のある読売ランド前を通過し、鶴川のトンネルを抜けて町田に着いた。 ホームには妹ゆかが立っていた。手を振ると向こうも気づいたようで、「おう」と合図する。まもなく車内に入って来た。みつこさんはまだ寝ているので、ゆかは通路を挟んだ3Cの席にそっと座った。 車内のざわつく様子でわかったのか、みつこさんがもぞもぞと目を覚ました。起きるなり隣にいるゆかを見つけて、 「ひゃあ!」 と叫んだ。私とゆかは大笑い。ここからバカップル+バカ妹による増結列車が走ることになる。 「おおう、ゆかさん」 「おはようですぅ」 二人が三人になると人間関係のバランスは微妙にずれて来るもので、私とみつこさんは基本的に仲良しなのだが、そこにゆかが加わると、みつこさんとゆかがくっついて、この二人がいつまでもおしゃべりに興じることになる。 今日もゆかの隣の3Dが空席になったので、みつこさんは早速ゆかの隣に席を移し、3Cと3Dとに並んで座った。だから、今回の増結列車は一応バカップル+バカ妹ということなのだが、実態としてはバカ兄+バカ嫁小姑という様相である。 みつこさんとゆかの今日の話題はやはり空き巣被害の話になった。いったいこの二人が何をどう話しているのか、くわしいことは私にはわからないが、ひたすらしゃべり続けているうちに小田原に着いた。 小田原からロマンスカーは箱根登山鉄道の線路に乗り入れる。小田急線の線路の幅はJRと同じ1067ミリだが、箱根登山鉄道は1435ミリなので、レールが三本並んでいる。小田急の電車が真ん中のレールを使い、箱根登山電車は外側のレールを使って、どちらの電車も走れるようにしている。 小田原を出てしばらく東海道線と並んで走り、新幹線の下をくぐって箱根板橋を通過。次の風祭(かざまつり)で上り新宿行きの急行とすれ違い。急行は6両編成でホームより長いので新宿方はホームからはみ出して停まっている。さらに次の入生田(いりうだ)でドアは開かないがいったん停車。上り新宿行きロマンスカーの通過待ちをする。雨足はやや強いようで、ホームを見るとしぶきが立っている。そうして再びそろりそろりと動き出して、10時26分、終点箱根湯本に着いた。 |
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