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走れ!バカップル列車 第89号 えちごトキめき鉄道の国鉄形観光急行 |
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一 ご近所に大塚いちおさんというイラストレーターがいて、知り合ったころから広告やらテレビやらの仕事がだんだん増えて、いまや巨匠と呼ばれている。小さいお子さんやそのご両親ならNHK教育テレビの『みいつけた!』に出てくる「いすのまちコッシー」をつくった人といえばすぐにわかるはずだし、サッカー好きなら川崎フロンターレのファミリーアートディレクターといえばわかるだろうか。イラストどころか、デザインとか、エッセイにまで活動領域を広げてしまって、落ち着いて考えると多芸多才の本当にすごい人なのである。 その大塚さんが二○一九年十二月、故郷新潟県上越市の高田駅前に「Digmog Coffee」(ディグモグコーヒー)という珈琲屋さんを開いて、当時から「来てね」と言われていたのだが、こちらもなかなか時間が合わせられなくて行かずじまいでいた。そうこうするうちに「雁木亭でごちそうするから」と言われたので、早速行くことになった。雁木亭というのは高田駅近くの大塚さんお気に入りの郷土料理店で、以前から噂は聞いていたのである。 雁木亭にひかれて上越に行くことにしたと思われるのも心外なので、ひとつだけ言い訳しておくと、ちょうどこの七月からえちごトキめき鉄道で国鉄形観光急行が走り始めたので、空いた時間でこの観光急行にも乗っておきたいという理由もある。結局、「Digmog Coffee」だけでは行かなかったじゃないかと言われれば、なにも言い返せないのが弱いところではある。 東京を拠点に巨匠としての活躍をしている大塚さんが故郷上越とのつながりを再び深くしたひとつのきっかけは、北陸新幹線の延伸開業ではないかと思う。 東京〜長野間で運行していた北陸新幹線(当時は長野新幹線とも呼ばれていた)が金沢まで延伸開業したのは二○一五年三月一四日のことである。長野〜金沢間には途中駅が六駅設けられたが、そのうち上越市内に開業したのが上越妙高駅である。 このころ大塚さんは地元自治体から上越妙高駅のお出迎えキャラクターの発案を依頼されている。そこから誕生したのがもぐらのキャラクター「WELMO」(ウェルモ)だ。幾分前後に細長いのは新幹線車輌をあしらったもぐらだからで、よく見ると色の塗り分けが北陸新幹線E7系・W7系に似ている。おでこの塗り分けは妙高山のカタチらしい。半分目を閉じたような眠そうな顔をしているのは、もぐらのトンネルから出てきたばかりで外がまぶしいから。ふつうイメージキャラクターといったら元気はつらつとか、かわいさ一杯といった感じのものを考えそうなものだが、ゆるくて力の抜けた雰囲気のキャラクターが出てくるのは大塚さんならではの技である。 この「ウェルモ」くんをきっかけに大塚さんは地元へ帰る頻度が増えていった。日刊紙「上越タイムス」に『ウェルモの勝手にモグモグタイムス』という記事を不定期で掲載したり、展示会やワークショップをはじめたり、二○一五年以降上越と関わる仕事が多くなる。 その集大成のような感じでオープンしたのが「Digmog Coffee」(ディグモグコーヒー)だ。お店の名前は英語の「dig」(掘る)とモグラの「mog」から来ている。しかも店長は「ウェルモ」くんと来ているから、なかなか凝ったからくりなのである。 北陸新幹線の延伸開業と同時に新幹線に並行する在来線はJRから第三セクター鉄道へと転換された。北陸新幹線は整備新幹線として建設されているから、JRは新幹線開業後の採算のとれなさそうな区間を手放すことができる。信越本線長野〜妙高高原間(長野県)はしなの鉄道北しなの線に、信越本線妙高高原〜直江津間と北陸本線直江津〜市振間(新潟県)はそれぞれえちごトキめき鉄道(略称「トキ鉄」)妙高はねうまラインと日本海ひすいラインに、北陸本線市振〜倶利迦羅間(富山県)はあいの風とやま鉄道に、北陸本線倶利迦羅〜金沢間(石川県)はIRいしかわ鉄道として再出発することになった。 新潟県の区間を運行するトキ鉄の路線が妙高はねうまラインと日本海ひすいラインに分かれているのは、前者がJR東日本信越本線、後者がJR西日本北陸本線であったことが主な理由だろう。もともと直江津を境に運転系統が分かれていたし、糸魚川付近には交流電化と直流電化の切替があったりで、いろいろ複雑な事情もありそうである。 第三セクター化された並行在来線というのは、JRにとってはお荷物だから手放したわけで、最初から経営は前途多難を覚悟での出発である。それでもトキ鉄はあらゆる手を尽くして観光客の誘致を積極的に進めている。 目を引くのは、かなり早い段階から観光列車の運行を企画していたことだろう。第三セクター鉄道は営業こそ新幹線の開業と同時だが、運営母体の会社は五年前の二○一○年に設立されている。その翌年ごろから観光列車の構想はあったようで、それが結実したのが二○一六年に登場した「えちごトキめきリゾート雪月花」だ。観光列車は既存の車輌を改造するケースが多いが、「雪月花」のすごいのはこの列車のために気動車二両を新製しているところである。トキ鉄の並々ならぬ意気込みを感じる。観光業界出身の社長がいたことも大きな要因であろう。ところがその社長は二○一九年に退任し、その後任に就いたのは鳥塚亮さんであった。 鳥塚亮さんは、千葉県いすみ鉄道の社長時代、ローカル鉄道の経営を立て直し、JRから譲り受けた国鉄時代の車輌を走らせて話題を呼んだ人物である。トキ鉄の社長になって、こんどはなにをするのだろうと楽しみにしていたら、期待通り国鉄時代の急行形(一部近郊形)車輌を買ってきて、この七月から「急いで行かない」急行列車を走らすことにした。 昭和の鉄道オタクの悲しい性というべきか、新型車輌「雪月花」を後回しにして、古くておんぼろの急いで行かない急行に乗りたいと思ってしまう。だから今回は、あくまで「Digmog Coffee」のついでに乗ってみようと心に誓った次第である。 |
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