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走れ!バカップル列車 第84号 京都鉄道博物館 |
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三 みつこさんを道連れにいよいよ京都鉄博にやってきた。 いちばんの目的はEF66形電気機関車とDD51形ディーゼル機関車の床下の写真を撮ることだが、それだけではみつこさんが京都鉄博を楽しめないので、まずは梅小路蒸気機関車館のころメインの展示会場だった扇形機関庫を見学する。 扇形機関庫(扇形庫)には中央に蒸気機関車の方向を変える転車台がある。そこから放射状に線路が敷かれており、末広がりになっている線路全体を覆うように建物があって上空から見ると扇のようなかたちになっているのでその名がつけられている。扇形庫には二十番まで番号が振られており、黒光りした蒸気機関車たちがいまにも動き出しそうな姿で配置されている。実際このうち七両ほどが「動態保存」といって、いつでも運転できる状態にあるという。 平日だから空いていると思いきや、館内は遠足の幼稚園生、小学生たちで賑わっていた。転車台と扇形庫の間のスペースにはびっしりとシートが敷かれていて、みんな楽しそうにお弁当を食べている。学校から依頼をうけたカメラマンが生徒たちの写真を撮っているが、生徒たちは食べる方に夢中で、熱心に笑顔をつくっていたのは先生の方だった。しかもピースのしかたがかつてのギャルっぽい。こういうところは昔の癖がつい出てしまうのだろう。ギャルがいまや色白になって立派に仕事に就いていると思うと感慨深い。 扇形庫の脇で「SLスチーム号」がちょうど発車するところだった。蒸気機関車がトロッコみたいな客車を牽いて構内五○○メートルほどの線路を往復するのである。みつこさんと「乗ってみよう」といって乗り場まで来てみたら、すでに満席だった。平日といってもやはり混雑している。いまのうちに14時30分発の切符を買っておく。 扇形機関庫を見渡せるデッキまで階段を上がった。デッキをそのまま歩いて行くと本館二階につながっている。一階を見下ろす通路をぐるりと回ってエスカレーターで一階まで降りてきた。そうして念願のEF66とDD51までやってくる。みつこさんにはほかの展示物を見学してもらうことにして、ひとり地下通路に潜り、それぞれの機関車の床下を撮影。完璧には撮れなかったが、最初思いついた狙いどおりにはどうにか撮ることができた。 地下通路から出てくると、みつこさんが「おなかすいたね」という。ハタと時計を見たら、もう十三時半近くになっている。見学や撮影に夢中になるあまりすっかり忘れていた。扇形庫の前で子供たちがお弁当をたべていたのをいまさらながら思い出す。 「すっかり忘れてたよ、ゴメンね」「忘れてもらっちゃ困るなぁ」 小言をいわれながら、二階のレストランまでやってくる。みつこさんはサフランライスがドクターイエロー型になっている「ドクターイエローハヤシライス」を、私は焼きそば、たこ焼き、お好み焼きがセットになった「関西プレート」を注文。二人してペロリと平らげた。 午後の部は、もう一度みつこさんを置き去りにして、EF66とDD51の床下を撮影。最初に思い描いた絵にさらに近づけるため、繰り返し何度も撮り直す。途中でほかの見学者が入ってくると撮影は中断になる。見学したいのはお互い様だから、こればっかりはしかたがない。DD51がうまく撮れたら、いったんは撮れたつもりになっていたEF66のところにまた戻ってDD51と同じ形で撮れるように再チャレンジする。そうして二十分ほど、EF66とDD51の間を行ったり来たりして、ようやく自分でも納得できる写真が撮れた。 床下から出てきたところで、「SLスチーム号」の乗車時刻14時30分が近づいてきた。みつこさんと合流して扇形庫脇の乗り場へ向かう。 転車台から伸びている一本の線路上に短いホームがつくられていて、そこに「SLスチーム号」の蒸気機関車とこの遊覧列車のために用意された客車が停まっている。牽引するSLは一か月ほどのサイクルで入れ替わるのだが、きょうはC56形160号機が当番だ。客車はレトロ調にデザインされた赤い車輌が機関車の京都駅側に二両連結されている。窓ガラスはないので、大雨の日や寒い日はたいへんだ。SLの煤も飛んで来そうである。すでに客車の各ボックスは家族連れたちで埋まっていて、誰も座っていないボックスがない。もう少し早く来るべきだったと思ったところでどうしようもない。パパと小さな男の子がちょこんと座っているボックス席に混ぜてもらうことにした。木製のベンチには往年の特急「はと」のマークが描かれている。 ボーッという汽笛が鳴って「SLスチーム号」が発車した。二両の客車を押しながらC56がゆっくりと動き出す。ホームに立つガイドのおじさんやおねえさんが両手を振って見送ってくれる。みつこさんも笑顔で手を振っている。反対の進行方向右側はふつうの営業車輌が留置される車庫になっていて、トワイライトエクスプレスの電源車や、嵯峨野トロッコの機関車も見つけることができた。その向こうには東海道線、さらにその南側には東海道新幹線が走っている。小さな男の子は窓の縁にかじりつくようにして外を眺めている。朝からくもっていたが、午後は晴れてきた。早くも黄色がかってきた晩秋の陽が車内に射し込んできて、みつこさんは思わず目を細める。 「SLスチーム号」はやがて山陰本線の高架線をくぐり、梅小路公園のはずれを走る。それまでと景色は変わって列車は紅葉の茂みの中を走る。機関車は自転車でも追いつけそうな速さでゆっくりと歩む。公園の東の端で線路は終わり停止した。 帰りは進行方向が逆向きになる。C56は二両の客車を引っ張って元ののりばへと向かって走る。 「あの子、目がとろんとしてきちゃったよ」みつこさんがささやく。発車前からものすごく興奮していたから疲れちゃったのだろう。パパが降りるよ、と男の子の手を引いている。乗車時間は十数分に過ぎなかったが、大人でも充分楽しめた。蒸気で走る列車にいまも乗れることがなによりうれしい。 その後はもう機関車の床下に潜ることはなく、SLの運転台に乗ってみたり、新幹線0系の前で写真を撮ってもらったり、ブルートレインの食堂車でお茶をしたり、みつこさんにも鉄道の世界を存分に楽しんでもらって京都鉄博を後にした。 |
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