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走れ!バカップル列車 《特別編》
第83号 下津井電鉄の廃線跡をめぐる(後編)



   二

 歩き始めてから一キロほどで児島駅の次の駅、備前赤崎駅の跡に着いた。
 道の両側にホームの跡が残されている。「風の道」整備の時につくったと思われる「びぜんあかさき(駅跡)」と書かれた「駅名標」のようなものまである。
 両側のホームとホームの間隔はいまの鉄道設備からするとけっこう狭い。そんな狭いスペースで二つの列車がすれ違えるのかと思うが、下津井電鉄は線路幅も車両幅も狭い軽便鉄道なのですれ違えたのである。
 進行方向を見ると、正面に小高い山があって、その頂上に鷲羽山ハイランドの観覧車が見える。きょうは天気が良いので観覧車のてっぺんからは瀬戸内海の美しい風景が見られるだろう。
 備前赤崎駅跡からさらに進むと国道に出た。向かい側に廃線跡が続いているのだが、横断歩道がないので渡れない。しかたなく一五〇メートルほど先の扇の嵶(おぎのたわ)口交差点まで出て横断歩道を渡り、また戻って廃線跡の続きを歩く。
 この区間、省略しても良かったのだが、半径一〇〇メートルに満たないほどのカーブで線路が東に曲がるところなので見ておきたかった。
 民家に挟まれて黄色い土の道が左に曲がっている。ふつうの鉄道にはなかなかない超急カーブで、その先が茂みに隠れて見えないほどだ。架線をできるだけ線路の真上に近づけるため、赤い架線柱が十メートルほどの短い間隔で立っている。これが残っているだけでもわざわざ遠回りして来た甲斐があった。キシキシとレールを軋ませて、電車がゆっくり通過する様子が目に浮かぶ。
 カーブを九〇度近く曲がると児島インターチェンジにつながる幹線道路に出る。こちらも横断歩道がないから、まっすぐ行けない。扇の嵶口交差点まで戻って幹線道路を渡り、途切れた「風の道」の続きを歩く。
 幹線道路から一〇〇メートルほど進んだところで阿津駅跡に来た。背後に八幡様のある小山があって、その先の線路は小山の麓に沿うようにゆるやかに右に曲がっていく。
 子供たちが自転車で追いかけっこをしている。またウォーキングのお年寄りに追い抜かれてしまった。
 児島という地名は、ここがもともと「島」だったかららしい。いま市街地となっている平地は海だったところが陸地化した部分で、八幡様の小山からその南側の鷲羽山ハイランドと神道山、さらにその東の鷲羽山へと続く丘陵地帯がもともと島だった部分だ。
 市街地を南下してきた下津井電鉄の線路は、平地が尽きたあたりで半径一〇〇メートルの急カーブを左に曲がり、さらにその先で小山の麓を回り込みながらゆるやかに右に曲がる。このS字型カーブで、島だった丘陵地帯の東海岸に回り込みむのである。
 S字カーブを曲がりきると線路はまっすぐになり、なだらかな坂を登ってゆく。
 右側に病院を見るあたりは樹木が鬱蒼と茂ってまるでトンネルを抜けるかのようだ。このあたりから「風の道」はアスファルト舗装になる。
 緑のトンネルを抜けると目の前にJR瀬戸大橋線のコンクリート高架が現れた。快速「マリンライナー」が轟音で通過して行く。私たちも午前中に通ったところだが、うかつなことに下津井電鉄の線路跡と交差するなど考えもしなかった。新幹線のような高架線と地面を這う軽便鉄道とでは、線路の形も時間の流れ方もまるで違う。瀬戸大橋開通後の三年弱、下津井電鉄の電車はこの高架線の下を走り続けた。いったいどういう思いでくぐり抜けていたのだろう。



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