| リストに戻る |
|
走れ!バカップル列車 第78号 一畑電車北松江線と境線鬼太郎列車 |
|
三 翌二○一六年七月十日、朝八時ごろ、みつこさんと私は再び米子駅にやってきた。 きょうは境線に乗って境港(さかいみなと)に行き、境港の街をぷらぷらしながら水木しげる記念館を見学しようと思う。 境線は山陰地方で最初に開通した鉄道である。一九○二(明治三五)年に山陰本線の御来屋(みくりや)〜米子間とともに米子〜境(現・境港)間が開業した。「陰陽連絡線」といって山陰の重要港である境港と山陽の姫路とを結ぶ幹線を建設する計画の第一歩であり、境港から建設資材を運ぶ路線としても重要な役割を担った。 ところが「陰陽連絡線」の計画は、一九○三(明治三六)年には山陰の日本海沿岸地域を結ぶ「山陰縦貫線」(現・山陰本線)に編入され、さらに一九○五(明治三八)年ごろの計画変更で福知山〜出雲今市(現・出雲市)間が本線で米子〜境間は支線という扱いになってしまった。一九○九(明治四二)年には、全国の国有鉄道の線路名称が体系的に制定され、鳥取〜松江間が山陰本線、米子〜境間は境線と決められている。 私の手もとにある昭和三十一年以降の『時刻表』を調べたところ、境線を走った優等列車は昭和三十年代後半から昭和四十年代前半にかけて鳥取〜境港間で一日一往復運行された準急「美保」(のちに急行「美保」)だけだった。しかも末期の昭和四十三年以降は、直通はするものの急行なのは山陰本線内だけで、境線内は普通列車で運転されている。一七・九キロという短い路線ということもあるだろう。準急・急行料金を払ってまで早く着きたいという需要が少なかったのかもしれない。 山陰本線から直通する列車はいまでも一本運転されているが、急行列車が境線を走ったという記録は昭和四十年代以降確認できなかった。現在、休日ダイヤに快速「みなとライナー」の時刻が記載されているが、運転されるのは多客期のごく限られた日だけである。しかも快速列車は特別料金不要なので優等列車とはいいにくい。 歴史ある路線にもかかわらず、境線は普通列車がその路線内を行き来するだけのまったくのローカル線にされてしまったのである。 米子の境線発着ホームがまた、駅の隅っこにある0(ゼロ)番線である。 幹線とローカル線が接続する駅では、ローカル線のホームは幹線の列車のじゃまにならないよう、一番線ホーム先端の一部を切り欠いて、そこを発着ホームにするケースが往々にしてあった。切り欠く場所は一番線線路側だったり、一番線の向かい側(駅舎側)だったり、細かく見ると違いはあるが、おおよその構造はだいたい一緒である。ホームの番号は一番線よりも駅舎に近いということで、多くは0番線と付番されている。 似たような構造の駅は、米坂線が発着する米沢駅、豊肥本線が発着する熊本駅などがある。京都駅の山陰線や関空特急「はるか」が発着するホームもこの例に当てはまるだろう。 米子駅の0番線は、改札口正面の一番線ホームを鳥取方向に進んだ先の向かい側(駅舎側)にある。 駅の隅っこでひっそり発着しているかと勝手に想像していたが、実際に来てみると様子はまったく違っていた。昨日「サンライズ」の車内でみつこさんが「あ、鬼太郎!」と叫んだとおり、0番線はふつうの駅らしからぬ一風変わった雰囲気になっていたのである。 改札から歩いて二番線〜五番線へ渡る跨線橋からもう違う。跨線橋の階段には『ゲゲゲの鬼太郎』のキャラクター「ねずみ男」がいて、「ようこそ、水木しげるワールドの玄関口、米子駅(ねずみ男駅)へ。」「境港ゆき鬼太郎列車は0番のりばから出発します。」と書かれている。 階段昇り口の脇には足型のイラストがあって、片足ずつに「境線のりば」「0番ホームから」、その横で「目玉おやじ」が「0番ホームはこの先」と案内している。 さらに先へ進むと境港行きの列車がすでに入線している。ディーゼルカーの前面には「猫娘」。境線の列車は「鬼太郎列車」と呼ばれていて、『ゲゲゲの鬼太郎』のキャラクターがラッピングされているのである。こんどの列車は二両編成で、境港側先頭が「子泣き爺」、後ろが「猫娘」である。 「あたしは猫娘好きだから」と、みつこさんは迷わず「猫娘」の車両に乗り込んだ。 発車時刻は8時31分なので、まだ十五分近く時間がある。みつこさんを車内に残して0番ホームをうろうろする。 0番線と一番線の線路に挟まれたホームには妖怪がひしめいている。 改札口に近い方から見ていくと、まず等身大くらいの木彫りの「ねずみ男」像が待ち構えている。その奥には右に「鬼太郎」と「目玉おやじ」の銅像、左に「烏天狗」の銅像。さらにその鳥取側には立て看板のような建具に背中合わせに二体の妖怪オブジェが貼り付けられたものが五組整然と並んでいる。 駅名標も0番線は「鬼太郎」と「ねずみ男」のイラストが描かれ、「米子〈ねずみ男駅〉」との標記がある。 みつこさんの待つ車内に戻る。車内も「猫娘」に埋め尽くされている。ピンクを基調色として、天井には特大の「猫娘」。座席の背もたれまでピンク地に「猫娘」のイラストがあしらわれている。 とにかく駅のホームも、列車の外も内も、すべてが『ゲゲゲの鬼太郎』である。走り出してわかったことだが、停車駅のアナウンスもアニメの「鬼太郎」の声優が出演しているのだ。この徹底ぶりはすごい。ローカル路線がまるでひとつのアトラクションのようだ。観光客誘致のためとはいえ、JRの一路線がまるごとひとりの作家がつくり出したキャラクターで演出されるというのは珍しい。 始発駅の米子からこうした世界観が作り出せるのは、境線のホームが山陰本線のホームとは離れた、隅っこのほうにあるからでもあろう。 境線ホームは、0番線でかえって良かったのかもしれない。 |
| next page 四 |
| リストに戻る |