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走れ!バカップル列車 第76号 サンライズ出雲(東海道・山陽線) |
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三 定刻22時00分、「サンライズ瀬戸・サンライズ出雲」が東京駅をゆっくりと発車する。高層ビルの明かりの谷底を列車は少しずつ加速してゆく。通勤客に埋め尽くされた新橋のホームをかすめて走る。 出発の時は上段にいたが、その後はみつこさんのいる下段に降りてきた。同じ窓から二人でぼんやり窓の外を眺める。蒲田、多摩川の鉄橋、川崎……街の灯が左から右に、次から次へと流れてゆく。 いままで数知れず眺めていたこの光景。当たり前のように考えていたが、もはや「サンライズ」が東海道・山陽線、いや国内最後の寝台特急となってしまった。ごく限られた機会でなければ「サンライズ」に乗ることもないだろう。今後、寝台特急からこの車窓が見られるのもそう何度もないかと思うと複雑な心持ちになる。 みつこさんと交替しながら歯みがきとトイレを済ませ、備え付けの寝間着に着替えたところで小田原を通過した。私は再び上段に昇り横になる。列車の揺れに身を委ねながら窓の外を眺めるのは、寝台列車ならではの至福のひとときである。 23時22分、熱海に到着。誰もいないホームに煌々と明かりが灯っている。向こうのホームには一日の仕事を終えた「踊り子」型185系電車、伊豆急行の車両が休んでいる。 JR東日本はここまでで、熱海から米原まではJR東海になる。到着するときホーム端に熱海から乗務する車掌が待機しているのが見えた。東京から乗務して私たちの乗車券、寝台券を検札に来た車掌は熱海で乗務を終え、ホームに降り立つ。 機関士、運転士と違って、もともと車掌は長距離列車でもその列車の始発から終着まで通しで乗務するのがふつうだった。民営化してJRになってもしばらくはその制度は残っていて、他のJRの車掌が越境乗務していた。どういう理由かはわからないが、ここ数年で急速に古くからの制度が改められ、きっちりJRの境界駅で車掌も交替するようになっている。 熱海は23時24分に発車。しばらくして丹那トンネルに入った。 「みちゃん、丹那トンネルだよ」 下段に話しかける。みつこさんも寝転がって外を見ている。 「長いね」 「そりゃぁ、丹那トンネルだからな」 そんなトンチンカンな会話を最後にみつこさんは寝入ってしまったようだ。 沼津、富士と続いて停車する。富士は23時56分発車。二分ほど遅れている。 「サンライズ」はこの後、静岡(0時20分発)、浜松(1時12分発)に停車するはずだが、それを待たずに私もいつのまにかうとうと寝てしまった。 夜中にガタゴトとたくさんポイントを渡る音がすると、どこの駅を通過したのかと気になる。だから寝不足になってしまうのだが、悲しいかなそれが鉄道おたくの性である。 東海道線で関東と関西をなんども往復していた中学・高校生のころなら、周りの風景が見えなくても、ポイントのタイミングやカーブの具合で、どこを走っているかはだいたいわかったものだが、その勘もいまはだいぶ鈍ってきていて、今後再び研ぎ澄まされるような機会もないというのがなんとも寂しい。 夜明け間近の午前四時ごろ、いくつものポイントをガタゴトと渡り、右に左に列車が揺れた。東京からちょうど六時間。 (京都だろうか?) よほど大きい駅だろうと眠い目をこすって窓の外を見るころにはホームを抜けてしまい、駅名標は読めなかった。 それからしばらく走って列車の速度がかなり落ちてきた。長く大きなカーブを右へ右へと曲がっている。大阪だろう。寝ながらでも、ここならわかる。 起き上がり窓の外を見る。空がほんのり明るくなっている。阪急の文字が光るビルがちらほらと見えてくる。 そうするうちにいくつものホームが並ぶ大きな駅の一隅に停車した。駅名標に「大阪」とある。熱海のときのようにホーム端に交替する車掌が待機している。 4時28分到着、運転停車なのでドアは開かない。 この時間から考えて、四時ごろに通過したあの駅はやはり京都だったのだろう。それにしてもちょうど六時間半で東京〜大阪間を走覇しているのが興味深い。 東京〜大阪間六時間半というのは、一九六四(昭和三九)年の東海道新幹線開業前夜まで東海道線を運行していた電車特急「こだま」の所要時間だからである。「こだま」と同じ線路の上を、ほぼ同じダイヤで走らせるところに運行計画を立てるスジ屋さんたちの意地が感じられて頼もしい。なお、上り「サンライズ」は深夜の大阪に停車する。時刻表の大阪発車時刻は0時34分。東京着は7時08分で六時間半をわずかに超えているのが惜しいところだ。 大阪には二分停車して、4時30分に発車した。 寝台特急は夜明けの阪神間を走る。沿線にはまだ街灯が光り輝いているが、空は次第に明るくなってくる。六甲の山々がぼんやりと浮かんでいる。三ノ宮4時48分通過、神戸4時51分通過。神戸からは山陽線だ。神戸通過後、再び寝入ってしまう。 車内放送の音で目が覚める。時計を見ると六時八分。あと二十分ほどで岡山に到着する。明け方の一時間余りぐっすり寝たおかげで睡眠不足は解消された感じだ。窓の外には雨が降っている。 みつこさんが起きてきた。 「岡山で『サンライズ瀬戸』と切り離すところ見に行かない?」 「うん、行くよ」 そう返事がかえってきたので、私も着替えて外に出るしたくをする。 揺れる通路を前方へとよたよた歩く。ひとつ隣の十二号車は「ノビノビ座席」だ。一人分のスペースが仕切りで区切られているが、カーペット敷きの空間が上下二段に並んでいる。 「こんなのもあるんだ」みつこさんが楽しそうに眺めている。「はまなす」のカーペットカーといい、みつこさんはこういう座席のほうが好きなのだろうか。 八号車まで来た。車掌が先ほどアナウンスしていたとおり、七号車と八号車の間の通り抜けはすでにできなくなっている。 八号車の乗降ドアの前には先客が四人ほど立っている。切り離し作業を見に行くのか、朝ごはんを調達しにいくのかはわからない。 6時27分、定刻に岡山駅八番線に到着した。 |
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