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走れ!バカップル列車 第76号 サンライズ出雲(東海道・山陽線) |
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二 とりあえず今回はみつこさんの許可が出たので、早速旅程を組むことにした。 七月八日金曜日の夜、「サンライズ出雲」で東京駅を出発、翌朝出雲市に着いたあと出雲大社に向かう。その後は一畑電車で松江に出て、その日は米子泊。翌日は境港(さかいみなと)に行って米子空港から帰京するという計画を立てた。 七月九日土曜日の米子の宿はなかなか取れなくて難儀したが、地元独立系の古くて小さなビジネスホテルがひとつだけ空いてるのを見つけることができた。翌日日曜日午後の米子発羽田行きの飛行機もとれなかった。この時期の米子にいったいなにがあるのか。まったくわからないが、幸い鳥取発の便なら予約ができた。あとは「サンライズ出雲」だ。この寝台券がとれなかったら、旅行は中止にせざるを得ない。 出発日一か月前の六月八日、みどりの窓口で「十時押し」をしてもらった。希望していた「サンライズツイン」という二人部屋は一瞬で売り切れてしまい、やはりとれなかった。いよいよ旅行は中止かと諦めていたところへ駅員が機転をきかせて他の寝台をあたってくれた。 「『シングルツイン』というのがとれましたがいかがでしょうか? 補助ベッドをつければお二人でご乗車できます」 (「シングルツイン」かあ……)一瞬、考え込んでしまう。 じつはは十四年前、「サンライズ瀬戸」で乗車した寝台が「シングルツイン」なのだ。二人で乗るにはちょっと窮屈だった記憶があるから、今回は「サンライズツイン」にしようとしたのだが。それでも旅行できないよりはましだ。そう考えて、「シングルツイン」の寝台券を買うことにした。 手にした寝台券に記された個室は「13号車 12番」となっている。家に帰って寝台特急の室内の様子が載っている雑誌を見ると、「12番」の個室は進行方向右側にあることがわかった。 「『サンライズ』の寝台券取れたんだけどね」みつこさんに話しかけてみた。 「よかったじゃん」 「二人用の広い個室が取りたかったんだけど、それは取れなくて、昔『瀬戸』で乗った狭い二段式の部屋になったんだ。大丈夫かな?」 「うん、大丈夫だよ。取れてよかったよ」 そうして一か月が過ぎた。 二○一六年七月八日、みつこさんと私は東京駅にやってきた。列車の発車時刻は22時ちょうどだが、早めに家を出て、八重洲口のレストラン街でスパゲッティーを食べた。改札口を抜け、九番・十番ホームまで来たのは九時半少し前のことだ。夜遅い時間帯とはいえ、家路へ急ぐ通勤客たちがせわしなく行き交い、隣の十番線ホームには上野東京ラインの普通列車を待つ行列が長く伸びている。 九番線からは21時30分発の「湘南ライナー13号」がちょうど出発するところだ。白い車体に斜めに緑の三本線が入った185系電車で、日中は特急「踊り子」に使われている。 「いかにも国鉄って感じの電車だね」みつこさんがいう。 「そりゃあ、本当に国鉄時代につくられた車両だからね」 185系もずいぶん古い。最初に登場したのは一九八一(昭和五六)年だからすでに三十五年も経っている。よく見たら先頭車は「クハ185-1」。185系の中でもいちばん古い車両である。JR車両のなかにはすでに廃車になったものもあるから、当時の国鉄はずいぶんと頑丈に車両をつくったものである。 「湘南ライナー」が発車して五、六分ほど経って、待ちかねた「サンライズ瀬戸・サンライズ出雲」が品川の車庫から回送されてきた。 「瀬戸」と「出雲」で同じ編成が七両ずつ、合わせて十四両という長い編成だ。 その名のとおり、「サンライズエクスプレス」は夜明けをイメージした車両である。車体上半分が赤、下半分がベージュ色で、赤とベージュの境目に金のラインが細く通っている。寝台特急といえば夜というイメージで車体も青色というのが国鉄からの伝統だったが、それとはまったく対照的だ。 オール二階建てで寝台車はすべて個室。木目調のインテリアデザインはミサワホームとの共同開発である。快適性とプライバシーを重視する時代を反映している。 いちばん豪華な「シングルデラックス」は四号車と十一号車、「シングル」は三、四、十、十一号車以外の各車両、「シングル」よりやや狭い「ソロ」は三、十号車、二人用個室の「サンライズツイン」は四、十一号車、私たちが乗る「シングルツイン」は一、二、六、七、八、九、十三、十四号車の車端部に配置されている。 このほか「ノビノビ座席」というカーペット敷きにごろ寝できる座席が五、十二号車にある。枕やシーツはないが掛け布団はある。寝台券は必要なく特急券(指定席)だけで乗れるからかなりお得といえる。 列車の先頭で記念写真を撮ったあと、みつこさんと二人で一号車から後ろの十四号車まで列車の様子を眺めながらホームを歩く。始発駅から列車に乗るときはできるだけ発車前に先頭から最後部まで見ておきたい。このひとときが旅立ちへの高揚感をいっそう引き立てるのだ。キャリーバッグを転がして自分の寝台に向かって歩く人たちがいる。早くも個室に乗り込んで、したくを整えている乗客が窓越しに見える。乗車率はかなり高そうだ。夏休みが近い金曜だからか、本日発の「サンライズ瀬戸」は高松到着後、土讃線の琴平まで運転区間を延長する。 十四号車で列車の最後部を眺めてから一両分戻って、今夜の宿となる十三号車に乗り込む。車端部に中央の通路を挟んで左右に二室ずつ個室が並んでいるが、このうち右側前方寄りの「十二番」が私たちの「シングルツイン」だ。 「タクシーみたいな匂いだな」 部屋に入るなり、匂いに敏感なみつこさんがいう。言われてみればそんな匂いがしないでもない。自分では特に気にならなかったし、それがどういうことなのか、その時の私にはわからなかったので、「そうかな?」と適当に答えておいた。 個室はお世辞にも広いとはいえない。一人分の寝台が上下に並んでいて、その手前は人一人がやっと立てるぐらいのスペースしかない。二人同時に立つと身動きがとれず、みつこさんがはじめに下段寝台に座って、やっと私が荷物を上段に載せるといった具合だ。 荷物を置いたり上着をハンガーにかけたり、したくが整って私が上段に、みつこさんが下段に落ち着いたところでちょうど発車時刻になった。 |
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