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走れ!バカップル列車
第61号 東北線夕刊輸送電車



   三

 東北線黒磯行き583Mは定刻通り13時20分に上野駅十五番線を発車した。グリーン車二両を連結した十両編成である。複雑なポイントをガタゴトと渡るため電車は駅構内をゆっくり進んでゆく。鶯谷付近で地上ホームからの線路と横に並び、日暮里を通過するあたりからスピードが出る。
 東北線上野〜大宮間の線路は複雑だ。日暮里から田端、王子へとまっすぐ進むのは京浜東北線の線路で、近距離の通勤電車が走ることから「電車線」と呼ばれることがある。これに対し宇都宮、高崎方面への中・長距離列車が走る線路は日暮里から京浜東北線の線路と離れ、北東方向に膨らむように迂回する。こちらの線路は「電車線」に対し「列車線」と呼ばれる。
 まっすぐ走る電車線と迂回する列車線とは王子付近で再び合流するが、日暮里から王子までの電車線と列車線に囲まれた空間には市街地のほか、貨物駅や、在来線車両、新幹線車両の基地がある。いろんな鉄道車両が並んでいるから鉄道おたくなら心ときめく区間だ。同じような車両基地は東海道線の品川にもあるが、上野東京ライン(東北縦貫線)が完成し東北線と東海道線の「列車線」がつながると、東海道線の電車も尾久に移ってくるという。空き地になった品川の車両基地は再開発されて、山手線の新駅ができたり、商業地域になったりする計画だ。
 上野から五分ほど走って次の駅、尾久に停車する。左側にはまだ車両基地が続いていて、都内とはいえ辺鄙な駅だ。ところが一駅だけ乗って尾久で下車する乗客が少なからずいた。みつこさんの隣のおばさんも尾久で降りていった。
 王子付近で列車線の迂回区間は終わって京浜東北線が見えてくる。ガードをくぐって右隣に京浜東北線、左隣には東北貨物線が並ぶ。新宿、池袋方面から山手貨物線、上中里を経て東北貨物線を走るのが湘南新宿ラインである。王子から東北貨物線、東北線(列車線)、京浜東北線(電車線)という複線の線路が三つ、合計六本の線路が北に向かう。頭上の高架線には東北新幹線も走っている。
 赤羽を発車すると埼京線、東北新幹線の線路が左にそれて、こちらの六本の線路は右にカーブして荒川の鉄橋を渡る。
 荒川の向こう側は埼玉県だが街並みの雰囲気は東京郊外の延長線上にある。京浜東北線しか停まらない川口、西川口、蕨といった駅を快調に飛ばしてゆく。
 浦和に停車。永らく続いていた高架化工事が完成し、列車線のホームも高架になっている。この工事で一段高いところを走る東北貨物線にも旅客ホームが新設され、湘南新宿ラインの列車が浦和に停車できるようになった。
 北浦和付近で武蔵野線と接続する貨物線が東北貨物線と合流する。広大な大宮操車場が縮小されてできた土地にはさいたま新都心ができあがり、新設された駅に京浜東北線と東北線・高崎線の普通電車が停車するようになった。埼京線、東北新幹線と再び合流して13時45分、大宮に着く。
 荷物室の方が騒がしいので覗いてみると、駅員が二、三人いて一番うしろのドアから水色のプラスチック製コンテナをガタゴトと積み込んでいる。鉄道業務関係の荷物だろうか。新聞ではなさそうだ。どうやらこの荷物室は新聞以外の荷物も運ぶらしい。

 大宮を発車すると東北線の電車は左に分岐する高崎線の複線を跨いで右に曲がる。右脇には東武野田線が並んでいて白い車体に青線の入った電車がトコトコ走っている。並行していた電車線も貨物線も大宮駅までで、複線だけになった線路が平坦な関東平野にまっすぐ伸びる。左右の風景もさすがに東京都内とは異なってきて、高層ビルはなくなり一戸建ての住宅が多く並ぶ。
「なんか、眠くなってきちゃった」
 風景が単調になったからか、みつこさんはそういうとすやすやと居眠りをはじめてしまった。
 土呂、東大宮、蓮田と停まるたびに一番うしろのドアの位置に駅員が待機していて、ドアが開くと荷物室のコンテナから濃緑色の書類袋のようなものを受けとっている。書類袋には「大宮支社」「事業用」といった文字が見える。大宮支社からの各駅への伝達事項だろうか。このあたりではまだ新聞の荷下ろしは行わない。
 栗橋で再び荷物室の一番うしろが騒がしくなる。車掌が四人、談笑しながら乗り込んできた。うち三人は車掌室の前に立ったまま待機。一人は仕切りカーテンをくぐってこちらの客室に来て、車内改札をしに隣の車両へと巡回していった。この電車に先行して走っていた特急「きぬがわ5号」の乗務員らしい。「きぬがわ5号」は栗橋から東武線に入り東武の乗務員と交替するから、その後はこの列車に便乗して詰所に戻るのだろう。利根川の長い鉄橋を渡って古河に着いた。上野からおおよそ一時間。
 高架化された古河のホームには頭にタオルを巻いたお兄さんや体格の良いおねえさんが六人ほどずらりと待機していた。どうやら新聞は古河から降ろしはじめるようだ。荷物室から古河駅分の新聞を降ろし、新聞ごと販売店ごとにテキパキと仕分けしている。その作業が済むと、あるお兄さんは肩に担ぎ、あるいは両手に抱え、そしておねえさんは持参の台車に載せて出口に向かって足早に去っていった。
 東北線では古河だけが茨城県の駅で、野木からは栃木県に入る。野木、間々田あたりは小さな駅なので電車を待つ販売店のお兄さんも二、三人しかいない。野木では一人、スマホをいじりながら全然反対の方向を見ていて一般の乗客かと間違えそうなお兄ちゃんがいた。それでも新聞が来ると興味なさそうな顔で自分の分を受けとり出口の方へ歩いて行く。ちゃんと仕事はしているようだ。
 電車は心地良く揺れながら関東平野をひた走る。居眠りしているみつこさんの頭が前に垂れていて、電車に合わせてゆうらゆうらと揺れている。会津の赤べこみたいだ。



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