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走れ!バカップル列車 第27号 0系こだま |
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三 やはり0系が古い車両だと思うのは、暖房の効きが悪いのか、足もとがうすら寒いことだ。みつこさんも寒そうにしているが、それでも根性で居眠りしている。 トンネルを抜けて新尾道に着く。山陽本線の尾道は海に近いが、新尾道は三キロほど北に入った山の中にある。トンネルを一つ抜ければ三原なので特につくる必要もなかったような駅である。すぐに発車する。 三原は山陽本線の駅と並んでいて、けっこうな乗り降りがある。十一分停車する間に「のぞみ5号」に抜かれる。この一本だけなら四分停車で済むが、「のぞみ5号」のあとに「のぞみ173号」の影スジがある。 三原を発車して、トンネルとトンネルの間で川を渡った。その川沿いに複線の線路が続いている。新幹線と直角に交わる在来線がこんなところにあったかと思って地図を見たら、川は沼田川といって、その線路は山陽本線であった。このあたりは山がちな地域で、在来線は右へ左へ方向を変えながら山を越える。新幹線は長いトンネルで一気に山を越えている。だから新幹線と在来線がまったく違う方向を向いて交わる。 東広島は山の中の盆地にある。 「雪が残ってるね」 目を覚ましたみつこさんが、窓の外を見て言う。あたりは農村になっていて、農家が点在している。 「すごいお屋敷だねえ。無駄に広いねえ。過疎だってのにこんな広い家、誰が住むんだろう?」 まったく大きなお世話である。 「掃除もたいへんだよね」 たしかに家が広いと掃除はたいへんだ。やはり高齢化や過疎が進むと大きな屋敷を維持するのは難しくなる、ということなのか。 「瓦が茶色いね」 なかなか鋭い指摘である。石見の国はずっと北のほうにあるが、おそらく石州瓦だろう。 六分間の停車中に「ひかりレールスター455号」が通過してゆく。東広島は新尾道と同じく地元の要望をうけて全額地元負担でつくられた駅である。見てのとおり付近は農村で、とても新幹線が停車するような都市には見えない。利用客も低迷しているらしい。それでも「ひかり」が「こだま」を追い抜くということは、ダイヤ編成上、駅の設備は大いに役立っているということだ。 地元の負担で駅をつくってはみたが、結局、得をしたのはこの駅を通過していく乗客という皮肉なことになっている。 再び発車する。野山を走り、トンネルを抜けて、広島の市街地に出る。 11時14分、「こだま639号」は終点広島に到着した。 荷物をまとめてホームに出る。 「おつかれさまでした」 長い時間、長い距離を走り続けてきた0系新幹線の労をねぎらい、広島駅を出た。 外はいつのまにか雨が降っている。 駅前広場には広島電鉄、通称「広電」の路面電車が頻繁に発着している。寒いのでまた駅の中に入る。ちょっと早いが、駅ビルのレストランで昼ごはんを食べることにする。 いろいろ迷って、「かき名庵」という店に入り、「オイスターランチ」を注文した。みつこさんが出発前にあれも食べたいこれも食べたいと言っていたカキ料理がだいたい揃っている。 「酢カキ(特製ポン酢つき)」 「冷製オイスター(オリーブオイルがけ)」 「カキフライ」 「カキグラタン・カキジェノバ風」 「カキ飯」などなど。 お吸い物とフルーツもついて、これで二九○○円はお得だ。大きなお盆に載って、どかんとくる。これでもかこれでもかというほどカキが盛られている。みつこさんは食べてる間じゅう、ずっとほくほく顔である。カキ飯はおかわりできるというので、一杯だけおかわりした。いったい何匹食べただろう。少なくとも二○匹は食べたはずである。満腹になって店を出る。 店を出たのはいいが、これから先、さて、どうしようかと思う。 きょうのうちに東京行きの新幹線で帰る予定であるが、夕方まで広島市内をうろうろするつもりでいた。もともと観光などするつもりはないが、雨が降っているのでどこへ行くにも億劫になる。 とりあえず、広電に乗ることにした。 駅前広場の先にある路面電車の停留所まで早足で向かう。昨夜は雨は降っていなかったから、傘はみつこさんの折りたたみ傘一つを相合い傘するしかない。 乗り場は電車を待つ人で溢れている。電車一日乗車券六○○円を二枚買う。 「広島駅」の停留所からは、かつて「宇品」と呼ばれていた「広島港」方面、かつて「己斐」と呼ばれていた「広電西広島」方面など、四系統の電車が発車している。時間はたっぷりあるので、「二号線」でここから一番遠い「広電宮島口」まで行こうと思う。 すぐにきた宮島口行きの電車は古い電車だったが、反対側の線路に待機している次の電車は、短い車両が五両つながった芋虫みたいな電車である。5000形というらしい。バリアフリーのため低床式になっていて、車体の下が路面すれすれである。 「あっちの電車に乗りたいから、一本見送ってもいいかな?」 「うん、いいよ」 前の電車が発車して、緑色の5000形電車が入ってきた。 列の先頭で待っていたので、真っ先に電車に乗り込む。宮島口までは一時間ぐらいかかるので、できれば座っておきたい。入口の横にある運賃箱に一日乗車券を入れようとするが、要領がいまひとつつかめない。どこから入れればいいのか? 入れ方はこれでいいのか? まごついているうちに後ろから続々乗客がやって来て、座席はぜんぶ埋まってしまった。 横で見ていたみつこさんがうんざりした顔になっている。 「席、埋まっちゃったじゃん」 「すまんのう」 座れなければ、みつこさんが好きな居眠りもできない。 しかたなく、手すりにつかまって立ってることにした。運転士のいる運転席の窓から前方がよく見える。電車は雨降る広島の街の中を走り出した。 |
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