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走れ!バカップル列車
第27号 0系こだま



   四

 車内はけっこう混雑している。
 橋を二つ渡り、中心街に入って行く。胡町、八丁堀あたりまで来ると左右に大きなビルが建ち並び、デパートなども多い。降りる人もたくさんいて、私たちも席に着くことができた。
 みつこさんは席につくとすぐに居眠りをはじめてしまった。
 交差点を左に曲がり、右に曲がり、くねくねと進んで広電西広島の電停に着いた。
 広電は同じ電車が広島駅方面から宮島口方面へ直通しているが、広島駅から西広島まで(本線)と、西広島から宮島口まで(宮島線)は路線の種類が違っている。
 本線を含めた市内の路線は、道路との併用軌道で「軌道線」になっている。いわゆる路面電車である。反対に宮島線は、電車専用の敷地を走る「鉄道線」で、性格としてはふつうの私鉄電車と同じである。
 もちろん、そんなことを説明する案内などはなく、その必要もなく、乗員も乗客もなんでもない顔をして西広島の駅を発車する。
 五両編成の5000形電車は複線の専用線路を快調に走る。
 すぐ横をJR山陽本線の線路が並んでいる。こちらは海に近い平地を走っているが、山陽線の線路は山側にあって、ときどき少し離れて広電より高い丘の上を走ったりする。山陽線に乗っているときはそんなことは感じなかったが、広電から見ると、高いところを走る山陽線がなんだか偉そうに見える。
 広電の電車は一○分おきぐらいに頻繁に走っているが、山陽線にはあまり電車が走らない。列車が来たかと思えば、貨物列車ばかりである。
 西広島と宮島口の間は、JR山陽線と広電宮島線はぴったり並行しているが、この区間、広電には途中駅が十九(臨時駅を入れれば二○)もあるが、JRには五つしかない。利便性でいえば、広電のほうが上だろう。
 電車はこまめに停まっては客を乗せて、降ろす。市内線からの直通客だけでなく、宮島線に入ってから乗ってくる客も多い。
 海が見えてきた。宮島口はもう近い。競艇場前という臨時駅があって、きょうはこの電停にも停まる。競艇帰りのおっさんを二人ほど乗せる。臨時駅を発車したかと思えば、すぐに停まった。終点の宮島口だった。

 宮島口の駅を出てみる。空気が雨に煙っている。海の向こうに宮島があるが、厳島神社の朱色の鳥居も、霞んでしまってよく見えない。
 フェリーがまもなく出るというアナウンスがスピーカーから流れる。
「宮島、行ってみる?」
 みつこさんに訊く。
「いいよ。寒いから」
 土産物売り場あたりにお茶できそうなところがないか探すが、のんびり休めそうなところもない。JR駅との間の街にも喫茶店がないか探したが見当たらない。また電車に乗って広島市内に戻ることにした。
 ぼんやり窓の外を見ていたら原爆ドームの横を通った。
 いつだったか、みつこさんから修学旅行の思い出話を聞いたことがある。原爆ドームと平和記念資料館を見たら、みんながとてもショックを受けて、その直後にクラス全員で撮った記念写真は異様な雰囲気を醸し出していたという。
 来るときもみつこさんは居眠りを決め込んで、帰りもまたぐうぐう寝ている。その話を思い出したので、みつこさんを起こさないでおいた。
 紙屋町西の電停を降りることにした。賑わっているところだったので、ゆっくり休める喫茶店の一つくらいあるだろう。
 安全地帯(ホーム)に降りると、一番前に地下へ入る階段がある。降りてみると驚いたことに巨大な地下街になっている。「シャリオ」という名前らしい。しばらくうろうろ歩いていたらスターバックスコーヒーがあったので、入ることにした。
 ようやく落ち着いて、のんびりしてスタバを出た。紙屋町東の電停から再び電車に乗って広島駅に着いた。
 帰りの新幹線の切符を買うことにする。
 次の東京行きは17時00分発の「のぞみ40号」である。ところがその次の17時30分発の「のぞみ42号」は、500系である。30分ずらして500系に乗れるなら、そっちにするだろう。窓口で「42号」の特急券を二枚買った。
 発車まで小一時間ほど時間があるので、駅ビルの本屋をうろうろした。
 エスカレーターを乗りかえたところに、異様に流行っているお好み焼き屋がある。そう言えば、昼ごはんを食べるときにここを通ったら、ほかにもお好み焼き屋は多いのにこの店だけものすごい行列になっていた。「麗ちゃん」というのれんがかかっている。
 みつこさんが立ち止まり、店の中をじっと見入っている。
 一番奥に厨房があり、おっさんやおばちゃんがお好み焼きを威勢良く作っている。厨房の周りはカウンターになっていて、その横にテーブルがいくつか並んでいる。
 みつこさんは店内を見たまま動かない。晩ごはんにするにしたってまだちょっと早いし、ここでのんびり食べてしまったら新幹線に乗り遅れてしまう。しかし、みつこさんにしてみれば、カキ料理を食べても、広島に来ておいてお好み焼きを食べないで帰るのがものすごく心残りなのだろう。どうしようか。
 みつこさんが、「ハッ」とつぶやいて、私に言う。
「持ち帰りできますって、書いてある!」
 早速お兄さんに声をかける。
「持ち帰りでお願いしたいんですが、いいですか?」
「どれにしましょ?」
 メニューをみながら選んでいく。
「えっと、このふつうのお好み焼きと……」
「あ、こっちになっちゃうとソバ入ってないんですよ」
 お兄さんは親切である。広島でもあくまでソバなしが「ふつう」なのだ。
「ソバは入ってたほうが良いよね。広島焼きだもんね」
 みつこさんが訊いてくる。
「ソバ入りのふつうのやつと生エビ入りのを一つずつ注文したら?」
 私が答える。
「じゃあ、それでお願いします」
 できあがるまで店の前で待つ。みつこさんはとてもうれしそうな顔である。
「やっぱ、お好み焼きは食べておきたいじゃん」
 それは私も同感であるが、ここまでの思い込みはさすがである。
「新幹線の中で食べようね」
「車内にお好み焼きのにおいが充満するな」
 一○分ほどして、おばちゃんがあつあつのお好み焼きを包んで持ってきてくれた。二人ニコニコ顔で新幹線駅に向かう。
 いつのまにか、「のぞみ42号」にちょうどいい時間になっている。
 改札口を抜けて一四番ホームに出ると、博多方面から鋭い流線型の500系「のぞみ」が颯爽とやって来た。



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