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走れ!バカップル列車
第92号 ななつ星in九州 大村〜阿蘇



   四

 早朝6時00分、阿蘇駅に着いた。二○二二年五月十五日日曜日、ななつ星の旅、二日目の本格的なはじまりである。
 七号車のドアからホームへ出る。雲が低く垂れ込めているが、高原のひんやりした空気が心地よい。10時01分まで四時間停車する。朝食や阿蘇の草千里観光の時間である。
 駅はドーナツ状のカルデラ盆地の北側にあたる。南に阿蘇五岳がそびえ、北を外輪山に囲まれる。駅名からして阿蘇山の中心駅のような感じだが、中心街は四キロほど東へ進んだ宮地である。一九六一(昭和三六)年までは坊中という駅名だった。
 ホームは二本の線路の両脇に向かい合うように並んでいて、南側のホームが主に熊本方面(一部大分方面も)の列車が発着する一番のりば、北側のホームが大分方面の列車が発着する二番のりばとなっている。駅舎がある一番のりばから二番のりばへ行くには駅構内の踏切を渡る。
 ななつ星はいま二番のりばに停車しているが、機関車がちょうど踏切を跨ぐように停まっているから、反対側のホームへ行き来できない。そこで発車するまでの間、機関車を客車から切り離し、踏切を渡れるようにするという。
 機関車と客車の連結器周辺では車掌の古川さんがつなぎにヘルメットで切り離し準備作業をしている。作業は七○一号室の大きな窓の目の前だが、部屋ではまだみつこさんが眠っているのでブラインドは閉めたままである。
 十分弱で作業は終わった。機関車が数メートル動いてぴたりと停まる。ちょうど踏切を渡れるような格好だ。
 踏切の向こうから私を呼ぶ声がする。ミネさんだ。互いに駆け寄り、踏切の真ん中で再会を祝う。
 ミネさんは鉄道写真家 山﨑友也さんの教室を通じて知り合った写真友達だ。当時は関東に住んでいて、歳も近かったので、みんなで一緒に撮影会をしたり飲み会をしたり楽しく過ごしたが、二○一九年夏に地元九州に帰ってしまった。寂しくなったが、もともと関東は単身赴任だったから家族の時間を増やしたいという希望もあったようだ。SNSでのやりとりは続いていたが、実際に会うのは三年ぶりだろうか。
「予定より早く着いたんですよォ」。ニコニコ笑いながらミネさんはいう。立野でスイッチバックするななつ星を撮影してから来たという。
「立野って、国道の陸橋のところにいたの?」「いましたァ」一号車から見えた撮り鉄のひとりだったようだ。
 ほかの乗客に奇異な目で見られながら、踏切の真ん中でミネさんとずっと話し込んだ。ミネさんはこちらでの暮らし、九州の撮り鉄事情、私は東京の写真友達の近況などなど、どれだけ話しても話は尽きず、気づいたら二人して踏切に三十分以上立っていた。
 今日ミネさんに来ていただいたのはほかでもない。走っているななつ星の七○一号室に乗っている私たちを撮ってもらうためだ。たぶん一生に一度のことだから、しっかり残しておきたい。屋外から車内の人物を撮影するのはなかなかむつかしい技だが、九州の撮影地にくわしく、数々のフォトコンテストに入賞した実力をもつミネさんなら撮れる。個人的なことに巻き込んで申し訳ない気持ちもあったがミネさんは快諾してくれた。
 話しているうちに、草千里観光のバスが出ていった。けっこうな人数で出かけていったから、居残りは私たちぐらいかもしれない。

 ちょうど七時ごろ七○一号室の大きな窓のブラインドがあがり、みつこさんが現れた。ミネさんと私で手を振ると、みつこさんも手を振った。しばらくしてみつこさんもこっちに出てきた。
 三人でホームを歩きながら改めてななつ星の編成を七号車から一号車まで眺める。駅舎を抜けて駅前広場まで来るとなにやら金ぴかの銅像がある。漫画『ONE PIECE』の登場人物らしい。作者の尾田栄一郎が熊本出身だからだとミネさんが教えてくれた。
 ななつ星ツアーで出してくれる朝食の時間になったのでいったんミネさんと分かれて、二番のりばの奥の「火星」と名づけられたレストランに向かう。ななつ星の乗客のためにつくられたらしい平屋の建物だ。飛び石を歩いて「火星」と書かれたのれんをくぐる。みんな草千里にいったから店内に乗客は誰もいない。
 朝食は阿蘇駅近くでオーガニックレストラン「オルモコッピア」を経営する竹原直樹さんのオーガニック料理。ご自身のレストランは洋食店とのことだが、「火星」では和食を出してくれている。自家菜園野菜、南阿蘇の無農薬野菜などをふんだんに使った手作り料理だ。メニュー表がなかったので正確ではないが、おおよそ次のような料理がテーブルに並んだ。
  ・オクラの天ぷら
  ・蕗の煮物
  ・干し野菜
  ・茄子の煮びたし
  ・温泉玉子
  ・里芋の煮物
  ・胡麻味噌添え冷奴
  ・ご飯 ・味噌汁
  ・イチゴとブドウのゼリー
 各品ちょっとずつ並んでいるように見えるがぜんぶ食べるとおなかいっぱいになった。八時十五分を過ぎたら草千里から帰ってきたみなさんがぞろぞろとやってきた。入れ替わるような感じで私たちは「火星」を出た。
 再びミネさんと合流。駅の外からななつ星が撮影できるスポットを何か所か案内してもらった。駅前には日帰り温泉施設があって、その脇の道のドブからは湯けむりがもくもくとあがっていた。
 九時になり駅前の「道の駅 阿蘇」が開店したので入ってみた。みつこさんは名産品売り場にはあまり興味を示さなかったが、外の屋台でソフトクリームを配っていたので一目散に飛びついた。値段をきいたら無料だという。ななつ星の乗客へのサービスらしい。「内緒ですよ」。売り場のお姉さんがミネさんの分もつくってくれた。朝食が別々で心苦しかったのでうれしかった。中庭にあったベンチに座ってソフトクリームを食べた。ミネさんの面白い話にケラケラ笑っていたら同行カメラマンが私たち三人の写真を撮ってくれた。



第93号 ななつ星in九州 阿蘇〜博多へつづく
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