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走れ!バカップル列車 《特別編》 第82号 下津井電鉄の廃線跡をめぐる(前編) |
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五 みつこさんがデニムの白いシャツを買うというので、さきほどの店に戻ることにした。 見えない橋の延長線上にある道路を途中まで歩きながら再びジーンズストリートへ向かう。下津井電鉄の廃線跡はこのあたりから、道路の拡幅や交流センターなどに取り込まれてしまったようで、その痕跡を見つけ出すことはむつかしくなっている。 トルソが水玉ロングシャツを着ている店まで来ると、みつこさんはすぐさま店内に入って行った。 マー君は私たちが本当にまた来るとは思ってなかったようで、みつこさんの顔を見るなりたいそう喜んでくれた。白いシャツを早速試着してみるが、LサイズにするかMサイズにするかでかなり迷う。 「ジャケットみたいに着るならLなんですけど、上になにか羽織るならMですね」 あとは好みや着方の問題になるとマー君はいう。これまたさきほどのパンツと同じくらい悩みに悩みぬいてみつこさんはMサイズを買うことにした。 レジでみつこさんは「そのまま着ていきます」とタグだけ取ってもらい、買ったばかりのシャツに袖を通した。念願かなってみつこさんも満足げだ。 買い物の話がひととおり済むとマー君と雑談になった。どこから来たか、なにしに来たかといった話の中で下津井電鉄の名前が出た。 「僕が子供の頃はまだ小さな電車が走っていましたよ」 マー君が楽しそうに話すので、ひょっとして彼なら知っているかもしれないというほのかな希望がよぎった。 「あのう……大正橋のところに、護岸が不自然に出っ張ってるところありますよね? あれってもしかして下津井電鉄の鉄橋の橋脚ですか」 「えっ、よく見つけましたね。その通りです」 「やっぱり! あの出っ張りに合わせて橋が斜めに架かってたんですね」 「すごいです。あれ、なかなか気づかないですよ」 まさかジーンズショップの店員さんから下津井電鉄の遺構の話が聞けるとは思わなかった。おかげで九〇%の推測が一〇〇%の確信に変わった。 みつこさんも調子に乗って、ここに来る前にただ瀬戸大橋を渡るためだけに坂出まで行ってきたことをマー君に報告する。親切にマー君はその話をつないでくれて、 「瀬戸大橋の橋げたって電車の線路が二本ありますけど、その横にスペースが空いてるのご存知ですか」 「えっ、知らない。なんですか?」 みつこさんが聞き返している。私はたぶんあの話かな? という見当はついたが黙っていた。 「わからないです。なんで空いてるんですか?」みつこさんがもう一度訊く。 「瀬戸大橋ってもともと四国新幹線も通る設計なんですよ。だから外側の空いてるところは新幹線の線路のスペースなんです」 やはりその話だった。 「知らなかったですー。ひろさん、知ってた?」 「まぁ、おれは鉄チャンだから……」 「もし四国まで新幹線がつながっていたら、児島にももっと人が来ると思うんですけどね」 マー君も土曜日のこの人通りに問題を感じていたのだろう。 このときは話さなかったが、仮に新幹線が通ったとしても、それだけでは人通りは増えないのではないか。あれだけの投資をして瀬戸大橋に望みをかけた下津井電鉄が廃止に追い込まれたのである。なにかもう一工夫がなければ観光客はなかなか途中下車してくれないだろう。 買い物が済んだらおなかが空いてきた。児島に着いたのが遅かった上に、寄り道もしたから、すでに十三時近くになっている。話のついでにお昼のこともマー君に訊いてみる。 「この辺でおすすめの店ってありますか?」 「児島うどんがおいしいって小耳に挟んだんですけど」 二人で質問攻めにしてしまったが、「児島うどんだったらここがおすすめです」と、バスターミナルを南側にちょっと歩いたところにあるうどん屋を教えてくれた。 マー君の店を出て二人でトコトコ歩く。途中、旧児島駅を過ぎたあたりにバスの車庫があった。ほかならぬ下電バスの車庫である。下津井電鉄株式会社は鉄道は廃止になっても、会社名はそのままにいまもバス会社として営業中だ。旧駅に隣接していることなどを考えると元は軽便電車の駅の一部か車庫だったのではないだろうか。 七、八分でうどん屋に着いた。昼どきは過ぎていたが店内は混んでいる。二人で天ざるうどんを注文。 しばらく待つと、揚げたての天ぷらがやってきた。海老、ナス、カボチャなど。つけ汁とは別に天つゆもある。うどんも来た。つけ汁は西日本には珍しく濃いしょうゆの色をしている。しかしうどんがやけに長い。腕を上へ上へ伸ばしてもまだうどんが続いている。これ以上長かったら中腰にならないといけない。汁につけるまでがたいへんだ。長いから二本だけつまんでつけても器がいっぱいになる。それでも、つやつやしていて、太くて、コシがあっておいしかった。 小一時間ほどのんびり食べて、十四時ごろうどん屋を出た。 (つづく) |
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