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走れ!バカップル列車
第72号 急行はまなすB寝台



   四

「はまなす」を下車した後の私たちの予定は、深川11時08分発の留萌本線である。札幌から深川までの移動時間は特急列車で一時間ほど。その分を引いても四時間ほどの余裕がある。
 急げば留萌本線のもっと早い時間の列車に乗れるのだが、そうすると朝ごはんが食べられない。昨夜十時から揺れる車内にずっといたから、みつこさんのためにも朝ごはんぐらいは足もとのしっかりしたところで食べておきたい。
 とくにこれといった予定も立てないまま、とりあえず朝ごはんを食べにいくことにした。そうはいってもこんな朝早くから開いている店が数多くあるはずもなく、私たちがたいてい利用するのは札幌駅構内のミスタードーナツである。
 ドーナツと海老タンメンを食べてのんびり過ごしていたが、iPhoneの電池が減ってきていることに気がついた。ミスドにはコンセントのついている席がない。みつこさんにそのことを伝えると、
「スターバックスとかならついてる席があるんじゃない?」
 というので、ミスドは一時間ぐらいで出ることにした。
 駅周辺をうろうろ歩いてタリーズコーヒー、スターバックスの店内を覗いて回った。ところが席にコンセントがついてる気配がない。
「おかしいね。なんでだろ」
 みつこさんが首をかしげる。なんでも東京の基準で考えてしまうのは悪いくせなのかもしれない。
 そうこうするうちにトイレに行きたくなったので、駅ビルトイレの個室に入った。いまどきは公衆トイレといえどもウォシュレットがついている。
(ん? ウォシュレットはついているのか。)
 では電源はどうなっているのだろうと思ってコードの先をたどってみると、なんとコードがそのまま壁の後ろ側に隠れていた。コンセントにウォシュレットのプラグが刺さっている箇所がどこかにあるはずなのに、利用者がうかつに触れないようになっている。ただならぬ雰囲気を感じた私は洗面所周辺に電源がないか探してみた。掃除用に一、二箇所はあるはずなのに、コンセントがむき出しになっているところはひとつもなかった。これは東京より遅れているとかいう理由ではなさそうだ。一般客が使えないよう、厳重にガードされているといった雰囲気がある。
「みちゃん、わかった。コンセントがないんじゃないんだよ」トイレから出るなり、みつこさんに話しかけた。
「どういうこと?」
「わざと使えないようになっているんだよ。北海道は寒いから、電気はだいじな熱源なんじゃないかな。だからタリーズコーヒーにもスターバックスにもコンセントのある席がなかったんじゃないかな」
 コンセントのないのが悪いといってる訳ではない。むしろ公共の場所にあるコンセントから電気を無断で使うのは窃盗罪だ。ところが変われば事情も変わるということである。
 札幌駅構内を歩けば、ありとあらゆるところに北海道新幹線のポスターが貼ってある。「3・26」と開業日を示す文字が大きくあり、「はやぶさ」と同型のH5系の車体がびゅんと飛び出したイラストが描かれている。まさに道民をあげて新幹線開業を盛り上げているといった雰囲気だ。
 しかし今回の開業で新幹線が来るのは函館までである。直線距離でも百キロ以上離れた札幌でどこまで盛り上がっているのかはなはだ疑問である。地元の人はどこまでついて来ているのか。JRの演出だけが空回りしているのではないだろうか。

 予定を三十分ほど繰り上げて、札幌9時00分発の特急「スーパーカムイ7号」に乗ることにした。
「はまなす」で着いたころくもっていた空は晴れてきた。窓からは午前の日差しが降り注いできてぽかぽかとあたたかい。昨夜の寝不足も手伝ってついうとうとと居眠りする。
 深川には10時05分に着いた。留萌本線列車の発車までまだ一時間以上ある。改札を出て、留萌、増毛の硬券入場券を買ってみる。それでも時間があるので、駅前をぷらぷらと散歩してきた。
 三十分ほど歩いて駅まで戻ってくると駅舎の前に小学生三十人ほどの団体がいる。小鳥の巣の中に紛れ込んだんじゃないかと思うほどの賑やかさである。
「この子たちも留萌線に乗るのかな?」
「違うんじゃないか」ここから乗れる列車は留萌本線だけではない。
 改札口を入ると向こう側の四番ホームに留萌本線を走る銀色のディーゼルカーが停車しているのが見えた。よくみると前後の乗降口付近にそれぞれ四、五人ずつ並んでいる。
「ありゃりゃ、もう列ができてる。発車までまだ三十分以上あるのに」
 小走りで跨線橋を渡り、四番ホームに来た。どうにか五、六人目ぐらいに滑り込めた。ここなら二人並んで席に着くことができるだろう。
 ほっとするのもつかの間、どこからともなく小鳥のざわめきのようなものが近づいてくる。さきほどの小学生の団体だ。
「やっぱ留萌線に乗るのか」
 ディーゼルカーは一両しかない。小学生たちは二手に分かれて私たちの後ろに並んだ。ずいぶん賑やかな旅になりそうだ。
 すると四番線の同じ線路上を旭川側から銀色のディーゼルカーが一両近づいて来た。ホームには駅員と作業員が数名やって来て、無線機でなにやら交信している。停車している車両にもう一両増結するようだ。留萌を12時15分に発車する深川行きの列車があるが、そのための車両を深川から回送するのだろう。列車の運転本数が少ない北海道ではこういう車両運用が昔からよくあった。
「わしらはこっちに乗れば空いてるかな」
 増結車両に期待を込めてみた。増結作業が終わり、ドアが開かないかなと待っているがなかなか開かない。作業員たちが無線機でしきりに話している。
 増結車両が半分ホームからはみ出ているので停車位置をずらすらしい。つながった二両のディーゼルカーがゆっくりと留萌側(札幌側)に動いていく。私たちの行列も列の形を保ったまま乗降口を追いかけるようにしてずれて行く。
 増結車両にも乗れそうな位置で曖昧に待っていたが、どうやら増結車両の方を小学生専用にするようだ。
 ドアが開いた。小学生たちは後方の専用車両に向かった。みつこさんと私は前方の一般車両に乗り込み、ギリギリで二人席を確保した。



第73号 留萌本線増毛行き 一
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