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走れ!バカップル列車 第56号 寝台特急トワイライトエクスプレス(出発編) |
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一 十一月十九日に買った切符は乗車日と「スイート」の個室を指定する特急券・寝台券だ。「トワイライトエクスプレス」に乗るには、特急券・寝台券のほかに大阪〜札幌間の乗車券が必要になる。このほかに大阪まで行くための新幹線の乗車券・特急券、せっかくなので食堂車のディナーも予約しておきたい。これらの切符は翌々日の二十一日に買った。 残りの切符を買ってしまったあとは、あまりに平凡な日々が過ぎていった。それまで三か月、せっせと通っていた水道橋のみどりの窓口にもぱたんと行かなくなり、なにか物足りなくて居心地が悪いようなそんな毎日だった。 十二月に入り、本格的な冬が近づいてきた。そうなると気になるのは、乗る予定の「トワイライトエクスプレス」がちゃんと運転されるのかということだ。「トワイライトエクスプレス」が走る日本海沿岸の路線は、冬季は強風や大雪で列車が遅延したり運休になったりということが多い。二月に乗った「きたぐに」も私たちが乗った次の日は運休になっていたし、「トワイライトエクスプレス」も十二月八日発の列車が強風のため運休になっている。 そうこうしているうちに二○一二年十二月十九日、乗車当日がやってきた。運休になるかもしれないが、とにかく大阪に行かなければはじまらない。幸い天気予報は大雪になるような予報にはなっていない。 みつこさんと私は「のぞみ101号」と東海道線普通列車を乗り継いで大阪駅にやって来た。 「トワイライトエクスプレス」が発車する十番線ホームに降り立つと、頭上のLED掲示板には11時50分発の「トワイライトエクスプレス」の文字が表示されている。 「きょうは大丈夫そうだね」 みつこさんが掲示板をみて言う。ここに表示があれば、列車はやってくる。 「うん、良かったよ」 ふたりでほっと息をつく。 入線時刻までまだ十分ほどあるが、食堂車が停まるあたりには食堂車のクルーがすでに集まっている。シェフが三名、ウエイター、ウエイトレスが四名の計七名。食材を満載したでっかいワゴンも二台ほど待機している。 列車の入線が近づくと、食堂車のクルーたちは七人が等間隔で横一列に並んだ。この状態で列車を迎えるのだ。 列車が参りますというアナウンス。11時11分、深緑色に黄色いラインの入ったEF81形電気機関車に牽かれて「トワイライトエクスプレス」が入ってきた。食堂車のクルーたちは機関車が前を通るタイミングに合わせて列車に向かって最敬礼をする。七人のお辞儀の角度が揃っているのが美しい。列車が停止するとクルーたちは早速食堂車の準備、食材の搬入作業に入った。 機関車の後ろに繋がれているのは、同じく深緑色に黄色いラインの入った十両の寝台客車たち。間近に見るのははじめてだ。24系と呼ばれる車両は何度も改装、補修を施されているものの、製造から三十年以上経っている。外板は波打っているところがあったり、塗装が浮いてきたりしていて、ぱっと見ただけでも痛みはなかなか激しい。 「後ろに行ってみようよ」 私がいちばんに乗りたいと言っていた一号車「スイート」のある列車最後尾に行くことにした。 「おお、ここか!」 車両の後方には展望用の三枚窓、その両脇側面にも左右に一枚ずつ窓がある。側面の窓からみつこさんとのぞいてみるが、スモークガラスになっていてよく見えない。個室なのでプライバシー保護のために加工してあるのだろう。ソファのような椅子が二脚あるのと窓際にテレビがあるぐらいしか確認できなかった。 憧れの「スイート」とあって、見学者は私たち以外にもけっこういる。 「きゃー、ここだよ! 中見えるかな?」 これから乗車すると思われる若い女子三人組がきゃぴきゃぴとやって来て、ついさきほど私たちがしたように窓から「スイート」の中を覗いている。 「みえなーい」 これで外から室内が丸見えだったら、たしかに乗客は落ち着かないだろう。 札幌行きの下り列車は最後尾が一号車となり、前方にいくにしたがって二号車、三号車と続き、乗客が乗れるのは九号車まで。その前に電源車が一両あり、さらに先頭に機関車が連結されて、全部で十一両編成だ。最後尾に続き、機関車の前でも記念写真を撮る。 再び後方に戻って、乗車する二号車に向かう。三号車の食堂車ではクルーや業者のおじさんが食材などの搬入作業で大忙しだ。 いよいよ二号車三番の「スイート」に乗り込む。進行方向右側(日本海沿岸走行中は山側)に通路があって、左側(海側)に寝台個室が五部屋並んでいる。その中央が私たちの乗る「スイート」だ。 「うわあ! すっごい!」 ドアを開けるなり、みつこさんが叫ぶ。私も驚いた。想像していた以上に広い。入口すぐのスペースはリビングで、天井まで回り込む曲面ガラスがはまった大きな窓がある。リビングの大阪側にはツインベッドがあって、ベッドの横にも平面だけど大きな窓がある。札幌側はトイレとシャワールームになっている。幅は通路の分が取られているので二メートルほどだが、前後は五メートルはあるだろうか。列車という限られた空間で、これだけのスペースを二人だけで使えるのはとてつもない贅沢だ。 食堂車からウエイターがお茶の入ったポットとお湯のみを届けてくれた。ウエルカムドリンクの注文と夕食の確認、朝食の注文があっという間に済んでしまう。 みつこさんは室内のあちらこちらを点検し、設備やアメニティグッズなどを発見してはいちいち「すっごーい」などと絶叫している。私がその様子をみながらソファに座ってぼんやりしていると、みつこさんが声をかけてくる。 「ひろさん、どうしたの? うれしくないの? もっと喜びなよ」 「えー? うれしいよ」 「ぜんぜん、うれしそうじゃないじゃん」 みつこさんはそういうが、私だってうれしいことに変わりはないのだ。現実があまりにもすごすぎて、実感がなかなか湧いてこない。これは本当のことだろうか? ここにいて本当にいいのだろうか? そう考えるとどうにも素直に喜んでいいものかどうか迷う。 「いや、でもうれしいよ」 言いながら、これはうれしいことなのだ、もっと喜んでいいのだと自分でもう一度確かめてみる。 |
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