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走れ!バカップル列車 第39号 寝台特急北斗星 |
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八 寝台特急「北斗星」で札幌に着いたのは二○○九年六月十二日。みつこさんと私の初フルムーンの旅はまだまだ続く。 翌六月十三日は、二人の念願だった旭山動物園に行く。この日は丸一日動物園で過ごすつもりなので、鉄道には乗らない。十四日は富良野線などの列車を乗り継ぎながら旭川から札幌へと向かう。そして札幌からさらに列車を乗り継いで、最終的に十五日の昼ごろに東京駅に到着する予定だ。切符代金の元を取ろうとか、いくら得をしたとかの計算はしないつもりだが、フルムーンパスの有効期間は六月十五日までなので、あと四日間は有効に使いたい。 札幌駅三番線で回送「北斗星」をあっけなく見送った私たちは、「ステラプレイス」という駅ビル内の回転寿司「根室はなまる」で昼ごはんを食べることにした。お昼にはちょっと早いが、みつこさんも私も朝はパンを二個食べただけだったので、すでにおなかはすいている。 「根室はなまる」の前まで来てみると、昼前というのにものすごい行列である。この時間、ほかの店は呼び込みをしているくらいで行列なんてできていないのに、「はなまる」の前だけは異様な雰囲気だ。 十分ほど待って店に入ることができた。回ってくるお皿を取ったり、注文したりしながらいろいろおいしく食べたが、おすすめになっていた「時不知(ときしらず)」という鮭が脂がのっていて格別の味だった。みつこさんは鮭がけっこう好きで、時不知を食べたあとも炙りサーモンを注文していた。 満腹になって店を出て、地下鉄に乗ろうと札幌駅の地下街を歩いていたら、生キャラメルで話題の「花畑牧場」直営店があった。 「あ、花畑牧場があるよ」 みつこさんはそういったきり、店の前から動かなくなった。 「なにか、ほしいの?」 店の中では生キャラメルも売っているが、店先ではソフトクリームも売っている。 「ソフトクリームたべていい?」 「いいよ」 「ひろさんもたべる?」 「おらはいらないよ。もう一口も入らないって」 お寿司をあれだけ食べたのに、まだ入るほうがおかしいだろう。鮭を二皿もたべたのに。 「それが別腹なんだ」 みつこさんは自慢げにそういって、キャラメルソフトクリームを買ってきた。生キャラメルを練り込んであるソフトクリームだ。みつこさんは地下通路のど真ん中でソフトクリームをぺろぺろと食べはじめた。 「うん、おいしい」 けっこういいにおいだ。 「ひろさんもたべる?」 物欲しそうな顔をしていたのかもしれない。もうおなかはいっぱいだが、一口だけ食べてみる。 「うん、うまい」 もう一口だけ食べる。いや、もう一口。あと一口だけ……。 「ぜんぶ食べないでねっ」 みつこさんの目つきがするどい。私もうっかりしていた。ついぜんぶ食べきってしまうところだった。このキャラメルソフトクリーム、なかなかおいしかった。そして自分に別腹があったことにも驚きである。 札幌市営地下鉄南北線に三駅乗って中島公園で降り、安藤忠雄が設計した渡辺淳一文学館を見学した。 ふたたび札幌駅に戻ったのは十五時五分前くらいだった。15時08分発網走行きの特急「オホーツク5号」にギリギリ間に合う。窓口でフルムーンパスを提示し、「オホーツク」のグリーン券を発券してもらう。 札幌から旭川に向かうには三十分おきに走っている「スーパーカムイ」という特急列車がいちばん速くて便利だが、この特急にはグリーン車がない。フルムーンパスをできるだけ活用するためにはグリーン車を連結している列車のほうがいいので、今回は時間帯もちょうど良い「オホーツク5号」を選んだ。 北海道のグリーン車にははじめて乗った。制服をピシッと着こんだ客室乗務員のおねえさんがいて、驚いたことにソフトドリンクを一杯サービスしてくれた。もちろんペットボトルは自分でも用意していたが、これはなんだかうれしかった。 いつのまにか眠ってしまって、あっという間に旭川に着いた。16時41分着。特急列車はこの先網走まで行くので、このまま網走まで乗り続けたいが、その衝動はどうにか抑えて旭川で降りた。 今夜の宿は、雨の日でも駅から濡れずに行ける旭川ターミナルホテルだ。部屋に入って小一時間ほど休憩してから、旭川の街に繰り出す。時刻は六時だがいまの季節は日が長いので夕方という感じがしない。 晩ごはんは駅から十分ほど歩いた路地裏にある「自由軒」で食べる。カレーと豚肉料理がおいしい創業五十八年の老舗だ。 気まぐれサラダ、ギョーザのほか、名前にひかれてわらじ焼肉を注文。わらじ焼肉はその名のごとくわらじのようなどでかい豚肉のかたまりだった。その大きさにとにかく圧倒されてしまったが、いざ口に入れてみるとやわらかくてジューシーなお肉で、あっというまに平らげてしまった。ほかにもオムカレーやビーフシチューなど食べたいメニューはたくさんあったがさすがに満腹なので、残念ながら次回来たときのお楽しみということにした。 宿に戻ると、みつこさんが生キャラメルを食べようという。自由軒に行く前に駅前の西武で買っておいた花畑牧場の生キャラメルだ。 「え、まだ食べるの?」 二人でわらじ焼肉をあれだけ食べたじゃないか。 「別腹、別腹っ!」 とろ〜り甘い生キャラメルは、口に入れるとあっというまに溶けてなくなってしまう。自分にもまた別腹があったということになるが、生キャラメルを食べていてふと気がついたのは、あれだけ心配したみつこさんの乗り物酔いは、とっくのむかしにすっかり治っていたということだ。 |
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