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走れ!バカップル列車 第37号 津軽鉄道ストーブ列車 |
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四 五所川原からの五能線は16時12分の弘前行きである。乗り換え時間はわずか六分。ストーブ列車との別れを惜しむ間もなく、跨線橋を渡って五能線ホームに向かった。ストーブ列車からの乗り換え客が多いのだろう、ホームにはたくさんの乗客が列車を待っている。 しばらくしてやってきた五能線は短い二両編成だった。来るときに弘前から乗った四両編成のうち二両が鰺ヶ沢で折り返して戻ってきた車両だ。 鰺ヶ沢方面からもともと乗ってきた客と五所川原から乗った客とで車内はごった返していた。みつこさんだけ運良く空いていた席に座ることができた。 「生のイカ焼いてたおじさんいたじゃん」 動き出した車内で、みつこさんがストーブ列車での話をはじめた。 「いたいた。ひどいもんだよね」 私はみつこさんの前でつり革につかまりながら返事をする。 「五所川原に着いても、あのイカ、焼けなかったんだよね」 「そうだろうなぁ」 「そしたら、あのおじさんね……」 「うん?」 「あのままほったらかしにして降りようとしたんだよ」 「ええ!? マジ」 旅の恥はかき捨てというが、あまりの惨状である。生のイカをダルマストーブで焼くのすら常識はずれだというのに、それが焼けなかったからといって、放ったまま帰るとは……。 「だってあのおじさんたち、帰りのストーブ列車券、結局買わなかったでしょ」 「買わなかった」 「あれ、不正乗車だよね」 自分には関係ないこととはいえ、なんだか腹が立つ。 「それで、さすがに仲間の別のおじさんがね、そのままじゃいくらなんでもって言ったんじゃない? しぶしぶかたしてたよ」 「ああ、最後は片づけたんだ」 「しぶしぶだよ」 「でも、別のおっさんがそういってくれたのは、救いだね」 世の中、悪い人ばかりではないのだ。 「勝手にストーブで石炭くべてたおじさんいたでしょ」 みつこさんは次の話をする。 「素手でストーブに触って火傷してたよ」 「ホント?」 「うん、あちちってやってた」 「そりゃ、自業自得だな」 知らなかったのだが、JR東日本に「大人の休日倶楽部」という熟年向けの会があって、会員限定の割引切符が二月あたりから使えるようになるのだという。若い車掌が言ってたが、ストーブ列車の乗客も今週末から格段に増えたらしい。「大人の休日」はいいんだけど、ぜんぜん大人じゃないおじさんやおばさんばかり旅に出て、日本はいったいどうなるんだろう。 津軽平野のりんご畑を抜けて川部に着いた。たまたまみつこさんの隣の人が降りたので私も座ることができた。弘前までの約十分の間、二人とも熟睡してしまった。 そうして弘前には17時2分に着いた。 駅前の宿に荷物を置いて、晩ごはんは「炉辺」に行った。 「炉辺」は四年前も訪れた郷土料理のお店である。建物も基本的な間取りもいままでどおりだが、なんとなく店内の様子が違う。座敷に囲炉裏が点々と配置されているところも厨房の位置も変わっていないのだが、内装全体が新しくなったようだ。お手洗いの位置も変わっていて、みつこさんはついうっかりいままであったほうへ向かったら、「こっちです」と新しいお手洗いを案内されていた。 料理はヒラメの刺身、鱈の白子、そして貝焼きを注文した。貝焼きというのは大きなホタテの貝殻を鍋代わりにして炭火でコトコト煮込む料理である。イカ、鱈、ホタテ、豆腐、茄子、エノキダケ、山菜、春菊などを味噌汁にごっそり入れる。 炭の用意をしてくれた給仕のおばさんに内装のことを訊いたら、代替わりして店内を新しくしたのだという。 「前に来たときに、ちいさいおばあちゃんがいたんですけど、いまもこちらにいらっしゃるんですか?」 みつこさんがおばさんに尋ねた。たしかに前に来たとき、同じように炭の用意をしてくれたのは、もう腰も曲がっちゃっているのにしゃんとして真っ赤な炭をくべてくれたおばあちゃんだった。 「ああ、ヒロコねえさんだわ! ヒロコねえさん、昨日来てたのよ」 「あら、そうなんだぁ」 「残念だったね。昨日なら会えたね」 「ホントだ」 一度しか会ったことのないおばあちゃんだが、元気だという消息がつかめて私たちは安心した。 そうこうしているうちに貝焼きが煮えてきた。どれもこれもうまい。皿と茶碗と貝殻以外はすべて平らげ満腹になった。 |
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