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走れ!バカップル列車 第28号 ハイブリッド高原列車 |
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三 笹子トンネルを抜け、甲斐大和を通過し、もう二つトンネルを抜けると勝沼に着く。正式な駅名は十五年ほど前に「勝沼ぶどう郷」と変わってしまった。 勝沼の駅は笹子峠を越えて甲府に下る山の中腹にある。駅名は変わったが、窓からの眺望はいままでと変わらない。これを見るために左側の席に座ったと言っても過言ではない。 みつこさんが目を覚ました。 「わぁ、すごおい」 みつこさんだけではない。車内のあちこちからため息がもれている。 左側眼下に甲府盆地の家並みが広がり、遥か彼方に南アルプスが見渡せる。青い山々の頂きは白く、尾根部分の雪だけが解けて青くなりかけているところが春らしい。線路の下の斜面には桜がたくさん植えられていて、視界の周りを彩っている。まだ五分咲きくらいだが、桜の花がまるで車窓の額縁になったかのようだ。 もっと時間があれば途中下車してこの眺めを見ていたいところだが、「ホリデー快速」は停車時間もそこそこに勝沼を発車してしまう。写真を数枚撮っておいた。 中央線の線路は、勝沼と甲府との高低差を稼ぐため、甲府盆地の北東部へ大きく迂回して、少しずつ坂を下ってゆく。 塩山、山梨市、石和といった街を走り抜ける。家々の隙間にある農園に桃のような木がたくさん植えられていて、白い花が咲いている。桃にも白い花が咲くのかと思ったが、時期的にはまだ早い。その後、調べたらどうやらすももらしい。 桜は満開にはまだ遠く、桃はまだ何週間か早い。利用できる期間が四月十日までだからしかたないが、「18きっぷ」の旅はなにかと後悔を残すことが多い。 甲府を出て、街並みの中を走る。こんどは甲府盆地を抜けるため、釜無川に沿いながら斜面を少しずつ登って行く。 韮崎を出ると甲斐駒ヶ岳が間近に見えてくる。さらに進むと行く手に八ヶ岳がそびえている。甲府付近では一時くもっていたが、また晴れてきた。 11時59分、山々に囲まれた小淵沢の駅に着いた。 小海線に乗りかえるが次の列車まで一時間ほどある。いったん改札口を出ることにした。待合室の一角に立ち食いそばの店があり、湯気とともにいい匂いを漂わせている。 小淵沢には「元気甲斐」という駄洒落を効かせた名前の駅弁があるので、お昼はそれを食べようと思っていたが、みつこさんが「朝もお弁当だったし、昼はおそばでもいいよ」という。自動販売機で食券を買って、「野沢菜天ぷらそば」「山菜そば」を注文した。野沢菜天ぷらなるものは初めてだった。それだけ食べるとしょっぱかったが、食べてる間に汁に浸かって味が馴染んできたらおいしくなった。 店は最初すいていたのだが、私たちが「ぞーぞー」と食べはじめたら、待合室のおっさんやおばはんたちがこぞって食券を買い始めた。 発車時間まで待合室でぼんやりしようと思っていたが、みつこさんが「ホームで待ってようよ」というので、地下道と階段を渡って小海線のホームにやって来た。 お目当てのハイブリッド車は二両連結ですでにホームに停まっていた。乗客も何人か乗っている。 このハイブリッド車は、キハE200形という名前で、JR東日本が昨年夏から小海線に投入した新型車両である。発電用ディーゼルエンジンとリチウムイオン蓄電池を組み合わせながら電気モーターを回し、車輪を動かす。 登り坂や加速時など電気を多く必要とするときはエンジンを回して発電機と電池の両方から電気を供給し、平地などでは電池からの電気だけを利用する。逆に下り坂や減速時は電気モーターを発電機代わりに使い、発生した電気を蓄電池に貯めておく。エンジンは直接車輪を回すことには使わないから、トヨタのプリウスとは違う方式だが、ディーゼルエンジンと蓄電池という二つの電源による車両全体のシステムを指して、ハイブリッド車というらしい。 車両の周辺はディーゼルカーとは思えないほど静かで、ホームから離れたところに留置されている従来型ディーゼルカーのエンジン音の方がよっぽどうるさい。こちらのキハE200は、電池に電気を貯めるためか、ときどきアイドリングをさせるがそれも長くは続かない。乗客の少ない車内はしんとして、ときどき子供やお母さんの叱る声とかが聞こえてくる程度である。 車体はステンレス製で、黒や青や黄色のシールで大胆にデザインされている。車内は二人掛けシートを向かい合わせた四人用ボックス席と一人掛けシートを向かい合わせた二人用ボックス席とが通路を挟んで並べられている。シートは鮮やかな青、床はベージュ、壁は白。新型車両らしく全体として明るい色調だ。車内の一角には車椅子が入れるトイレも備わっている。 みつこさんと私は一両目進行方向右側の二人掛けボックス席に座ることにした。車内には私たち同様鉄道オタクの人びと、小さな子供がいる家族、おっさんやおばちゃんがちらほらといる程度で、静かな車内でぼんやりと発車を待った。 12時59分になって、新宿からの特急「あずさ13号」が着くと、乗りかえ客がわんさか押し寄せて、満席どころか、まるでラッシュアワーの通勤電車並みの混雑になった。 |
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