| リストに戻る |
|
走れ!バカップル列車 第24号 ホームライナー鴻巣3号 |
|
三 家に着いて、みつこさんに「ホームライナー鴻巣3号」の感想を訊いてみた。 「やっぱ、グリーン車はちょっと違うな」 「どこが?」 「通路が赤いふかふかのじゅうたんだった」 「そうか」 「あと、頭のところが布だった」 ヘッドレストのリネンのことである。最近の普通車は経費節減のためか、紙で間に合わせているところが多い。 「そうか」 みつこさんは言う。 「みちゃんはみちゃんなりに、一応感想はあるんだ」 「そうだな」 「寝てるだけじゃなくて……こう言っちゃ、なんなんだけどサ」 なんだか、きょうのみつこさんは自信に満ちたしゃべりをする。 「うん、わかた」 「わかってくれればいいんだ」 でも、しゃべるだけしゃべったら、疲れたのかそのままパタンと寝てしまった。 この日、私はたまたま時刻表の七月号を買ってかばんに入れていた。大きな時刻表を持ちながら「ホームライナー」に乗ったので、重くて大変だった。 みつこさんが寝た後、私はバカップル列車の余韻に浸りつつ、なんとはなしに時刻表を取り出してみた。 表紙には「JR西日本岡山・広島・山口地区ダイヤ改正」とある。なんだか嫌な予感がして、津山線と芸備線のページをめくった。 嫌な予感というのは、急行「つやま」と急行「みよし」のことである。JR線の急行列車は、国鉄末期から現在にかけて、ものすごい勢いで減っている。特急列車でも普通列車でもない中途半端な位置づけが扱いにくくなったのだろうか。急行列車は、特急列車に格上げされるか、あるいは急行料金のいらない快速列車などに格下げされるかして、徐々に減ってきたのである。 JR線で走っている急行列車は、もはや六系統しかない。 先ほど乗ってきた489系電車の本業である「能登」(上野〜金沢)のほか、「銀河」(東京〜大阪)、「きたぐに」(大阪〜新潟)、「はまなす」(青森〜札幌)、「つやま」(岡山〜津山)、「みよし」(三次〜広島)だけである。 このうち「つやま」と「みよし」以外は夜行列車なので、逆に「つやま」「みよし」はJRで二つしかない昼間の急行列車なのである。 私は、嫌な予感を抱きつつおそるおそる津山線のページを開いた。急行「つやま」の文字がある。良かった。「つやま」はダイヤ改正でも残った。 次は芸備線である。残されていれば四往復の「みよし」が走っているはずである。ドキドキしながらページをめくる。 快速「みよしライナー」と普通列車しか走っていない。 急行「みよし」は廃止されていたのである。 ダイヤ改正は七月一日だから、六月三十日限りとなる。あと四日で「みよし」は姿を消してしまう。 それにしても自分の情報収集能力のなさを痛感するばかりである。こんな重要なこと、どうして見落としていたのだろう。七月一日のダイヤ改正は五月の連休明けには発表されていたようである。 あと四日では、行こうと言ったって、なかなか難しい。広島である。おいそれと行ける場所じゃない。でも乗りたい。乗りたいけれど、諦めるしかないのか。 逆の見かたをすれば、急行「みよし」は少なくともあと四日は走っている。行こうと思えば、まだ「みよし」の姿を見届けることはできる。 翌日、みつこさんに事情を話してみた。 「まだ走ってるなら行けばいいじゃん」 みつこさんは即答した。ただ、一緒に広島へは行けないので、今度は私一人だけの旅である。 みつこさんはこうも言う。 「あのとき乗っておけば良かったってこの後ずっと思い続けるより、まだ行けるんだから、行っちゃったほうがいいよ」 その一言で決めた。やっぱり急行「みよし」に乗ることにした。 急行「みよし」に乗るとして、いつ乗ればいいのか。 最終日の六月三十日は混雑するはずなので、平日の木曜か金曜に乗る道も考えたが、やはり難しいので六月三十日にせざるを得ない。 そしていかに混雑を避けるかを考えて、「みよし1号」に乗ることにした。 急行「みよし」は備後落合・三次〜広島間を四往復走っている(二往復以上運転されている急行は「みよし」だけなので、その点でも貴重な存在である)。多くの鉄道おたくたちは広島から入るだろうから、私は逆方向から行こうと考えたのである。 この「みよし1号」は三次からもっと山奥に入った備後落合という駅から06時55分に発車する。備後落合は木次線との接続駅であるが、ふつうの都会生活に慣れたひとから見れば想像を絶するほどの田舎駅である。谷間に民家が数軒あるだけで、宿泊施設などない。 備後落合に泊まることなく06時55分までにたどり着く唯一の手段は、さらにさかのぼった岡山県の新見を05時22分に出る快速列車441Dに乗ることである。新見なら若干寂れているがビジネスホテルがある。電話したらホテルの予約は難なくできた。 |
| next page 四 |
| リストに戻る |