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走れ!バカップル列車 第20号 天竜浜名湖鉄道ワンマン列車 |
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一 大変なことになった。ついにバカ母が来てしまった。 私たちバカップル列車にゲストが参加した例は、「第2号 箱根登山電車」の妹ゆかにはじまり、「第10号」のしのぶ先生、「第14号」のさとしくん号とおくのさんたちがいるが、まさか我が母が参加するとは夢にも思わなかった。 今年八月十三日、静岡は掛川の義理の伯父さんの初盆に行くことになった。 葬儀に出られなかったので、せめて初盆は私たち二人も出かけようと決めていた。もちろん母も行く。 八月に入ったころ、母より電話があった。母の名はたかという。 「初盆終わったあと、どこか出かけよう」 そのころ世間はお盆休みである。どこか遊びに行こうというのは当然の成りゆきなのか。母たかの気分はすっかり初盆の後に向いていて、浮き浮きの様子である。 「あたしサ、二俣線に乗りたいやぁ」 昨年古希を迎えた母たかが遠州弁丸出しでそんなことを言う。 二俣線というのは国鉄時代の線路名称で、現在は第三セクター化されて「天竜浜名湖鉄道・天竜浜名湖線」と呼ばれている。東海道本線の掛川〜新所原間を浜名湖の北側を通って走るローカル線である。 「あのね、いまは二俣線って言わないんだよ。天竜浜名湖鉄道って言うんだよ」 「ああ、そう。だから、あたしゃ二俣線に乗りたいよ」 一度言ってもわからない人は、何度言ってもダメである。 「じゃあ、『二俣線』に乗ろう。乗るのはいいけど帰る日だよ。えーっと、八月の……十五日だよ。わかった?」 「うん、わかったよ」 そう返事があって電話は切れた。 奇遇といえば、奇遇である。 じつは私も今回、お盆の後に「二俣線」こと天竜浜名湖鉄道に乗ろうと思っていた。私もまだ乗ったことがないのである。 もちろん、母たかを誘うつもりはなかった。「乗りたい」と言うとは思ってなかったし、嫌々乗せるのも本意ではないから、最初から何も言わなかったのだ。みつこさんと二人でバカップル列車をして東京に戻ればいいと思っていた。 そこへ母たかが「二俣線に乗りたい」という。 同じ路線に乗るのに、まったく無視するわけにも行かない。本人が乗りたいというのを反対する理由もない。 そんな訳で、ついにバカップル+バカ母の混成列車が走ることになってしまったのである。 八月十三日の日曜日。夕方、掛川の従姉の家で初盆があった。 母たかは川崎の家から、みつこさんと私は王子の自宅から、それぞれ出発。現地集合である。宿は掛川駅前のホテルに二泊で予約。 話は、バカップル列車からちょっと脱線する。 翌十四日のことである。 その日、私たち三人はレンタカーを借りて、袋井、磐田、浜松周辺をドライブすることにした。母たかの思い出の地を巡ろうという趣向である。 青空に白い雲がぽっかり浮かぶ、夏休みの思い出を絵に描いたようなお天気の一日であった。 国道1号線を西に向かう。クルマの中で母たかはずっとしゃべり続けていた。よくもまぁ、これだけ話すことがあると思う。 たかのようなおばちゃんを助手席に乗せてはいけない。道案内をしようにも、その曲がり角を過ぎてから「あ、いまのとこ右!」などと叫ぶからである。うっかりハンドル操作を誤ったら事故になりかねない。たかはずっと後部座席に座っていたのだが、つねに私たちに向かって何か話しかけてくる。しまいには歌もうたっていた。静かなのは居眠りしたときだけである。 国道を外れて旧街道に入り、たかの実家のある袋井宿を通り、磐田市の向笠竹之内というところにあるたかの母、つまり私の祖母の実家を訪ねた。 私も幼い頃から「たけのうち」という場所のことはよく耳にはしていたが、てっきり竹が生えているから「竹の家」なのだと思っていた。竹之内という地名であることを私はつい最近知った。 川の堤防から降りた坂道の下に集落がある。 「この坂道、いま見ると何でもないけど、小さい頃は大きな坂に見えたんだよ」 たかが懐かしそうに辺りを見回す。 訪ねてみると竹之内の祖母の実家は人の気配がなく、入口に「立入禁止」の札がある。瓦葺き屋根の茶色く煤けた農家がひっそり佇むばかりである。 近所の親戚の家を訪ねてみた。玄関先からステテコ姿のおじちゃんが出てきた。 幼なじみだというおじちゃんにたかが話しかけている。 「小さいころ、ここいらで、よく遊んだねぇ」 たかも祖母に連れられて、よくこのあたりに遊びに来たのだろう。きょうはクルマで来たから、あっという間に着いたが、かつては袋井からすべて徒歩だったという。 たかはつかの間の再会を楽しんでいた。そのおじちゃんによると、祖母の実家は事業だか投資だかわからないが、何かに失敗して千坪もある屋敷を丸ごと他人に乗っ取られてしまったのだという。 「十七代だか続いた家が、そんなことで途絶えてしまうなんてねぇ」 たかがぽつんとつぶやく。 お昼は浜松の駅前で鰻を食べた。 みつこさんは鰻が食べられない。基本的に好き嫌いなく何でも食べるのだが、鰻と茗荷だけはダメらしい。 入った店は鰻専門店で鰻しかない。たかも私も鰻が大好物なのでしかたない。観念したみつこさんは、蒲焼きでない「白焼き丼」というのを注文した。わさび醤油をつけて食べる白焼きはコクのある白身魚のようで、けっこう食べられたようだ。 「浜名湖をみつこさんに見せたい」とたかがいうので、午後は浜松からさらに西へ向かった。遠州灘に近い弁天島の方は混みそうなので、ちょっと北にそれた舘山寺の方へクルマを進める。 特にすることもないので舘山寺からロープウェイに乗った。 浜名湖は手のひらを広げたような複雑なカタチをしている。山頂の展望台はその指と指の間に突き出ている場所にある。地平線と水平線に囲まれた三六○度の眺望だ。 色濃く茂る緑の中にキラキラ光る湖面が広がっている。青い水の上をモーターボートが猛スピードで通り過ぎて白い飛沫をあげている。 澄んだ青空に白く燃える太陽。来て良かったね、と三人で言い合った。 もう一度、浜松市内に戻って、たかが通っていた洋裁学校の先生を訪ね、こちらも何十年ぶりかの再会を果たした。 |
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