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走れ!バカップル列車 第18号 特急日光号 |
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三 特急「日光号」は荒川の鉄橋を渡り、埼玉県に入る。さいたまスーパーアリーナの大きさに驚いていたら大宮着。07時40分発。ここからは貨物線ではない東北本線を走る。 大宮発車後、しばらく郊外の住宅地を走り続けるが、東大宮を通過すると畑がところどころ見えてきて、車窓も心なしかのどかな雰囲気になる。 栗橋駅が近づいた。JRと東武の接続駅である。 東武日光線が頭上を越えて行く。速度を落とし、東北本線の線路から左に分岐して、新設された連絡線に入る。JR栗橋駅を右に見ながら特急は静かに停車した。 時刻表では「日光号」は栗橋駅を通過することになっている。時刻の欄にも通過を示す「レ」マークが書かれている。しかし、この駅ではJRから東武に入るため乗務員の交代が必要で、走行中にそんなことができるはずがない。このように営業上は「通過」であるのに、運転上の都合で現実に列車が「停車」することを「運転停車」という。 停車している電車の脇の通路を、乗務を終えたJRの車掌が二人、談笑しながら歩いて行く。同時に東武の運転手と車掌が乗り込んでいるのだろう。列車の先頭と最後部に当たる場所には小さな仮ホームのような台があり、ここで乗務員の交代が行われているようだ。 左隣には東武日光線の栗橋駅がある。運転停車中に浅草07時10分発の快速電車と上り浅草行きの区間快速が通り過ぎてゆく。 停車していたのは08時04分ごろから09分ごろまでの五分間ぐらいだったろうか。運転停車にしてはずいぶん長い停車時間だ。二本の東武電車を見送ると、特急列車はゆっくりと動き出した。左にさらに寄って行く。 電気系統の切り換えの関係で、しばらくデッドセクション(死電区間)を通る。照明、空調が全部停まって、電車は惰性だけでゆっくりと走り続ける。 東武線の上り本線に合流し、さらに渡り線を渡って東武日光線の下り本線に入ってゆく。電気がついた。JRの車両が東武の線路を走るのも不思議なものだ。 列車は関東平野を北上する。利根川を渡り、渡瀬遊水池の西側を通り、板倉東洋大前付近でちょっとだけ群馬県を走って、栃木県に入る。 新大平下で先ほど見送った浅草発東武日光行きの快速列車を追い抜く。 いつしか車窓は田園風景となって、田んぼが広がっている。まだ水のない田んぼ、水を張ったばかりの田んぼ、おばちゃんたちがせっせと野良仕事をしている。家々の屋根の上にはおおきな鯉のぼりが気持ちよさそうに泳いでいた。 俄に都会になって08時27分、栃木着。ここが東武線に入って初めての停車駅で、隣をJR両毛線の電車が走っている。栃木の町を離れると合戦場を通過する。 東武日光線が開業したのは昭和四(一九二九)年である。当初より全線複線・電化だったのは、国有鉄道日光線と対抗するためだったと思われる。戦前における日光への旅客輸送をめぐる競争は昭和十年代に繰り広げられた。 ところが大東亜戦争が始まると、東武日光線は不要不急路線であるとして、合戦場駅以北が単線化されてしまう。その資材は他の東武線のために使われたというが、大きな痛手だったろう。東武日光線の全線複線が復旧するのは戦後三十年近くを経た昭和四十八(一九七三)年である。 日光だろうか、遥か彼方には淡い色の山々が見えてきて、一面の水田に山の姿が逆さになって映っている。 新鹿沼に停車。この辺りが関東平野の北辺ということになるのだろうか。08時44分発。かつては東武特急も停まらなかっただろう途中駅にもこまめに停車する。 沿線は山がちになり、土手にはピンク色のツツジが咲いている。東隣は日光街道。江戸時代から残る杉並木が続いている。いよいよ日光に近づいて来た。 JR日光線をオーバークロスし、左にカーブして下今市に停車。09時01分発。この駅で鬼怒川線が北へ分岐する。日光線は進行方向を西に変えて、日光へさらに走る。正面には、頭に雪を頂く男体山が見えてきた。 線路は徐々にJR日光線に近づく。左には洋風駅舎のJR日光駅がある。東武線はJR線より一段高いところに敷かれている。特急「日光号」は、次第に速度を落とし、左にカーブしながら、広い構内の終点、東武日光駅に着いた。 09時07分、定刻での到着であった。 東武日光駅に来たのは、思えば初めてである。いまや特急列車の発着も少なくなったというのに、過去の栄光であろうか、とても広い構内なので驚いた。ホームが六番線まである。連休の最中で、その広い駅に乗客たちがごった返していた。 東照宮、華厳の滝、中禅寺湖……日光が価値ある遺産を残す地であることにいまも変わりはない。 しかし今日は、特急「日光号」に乗ることが目的であるので、日光で観光はしない。 私たちは、すぐに折り返す09時25分の普通電車で下今市に戻り、列車を乗り継いで喜多方ラーメンを食べに行く予定である。 東武日光から会津方面への切符を買わなければならないが、駅の窓口もまた、ごった返していた。しかも白人が多くて話が長く、列がなかなか進まない。 「みちゃん、電車に遅れちゃうかも」 「もうすぐ順番がくるよ」 「みちゃん、なかなか順番こないよ」 「でも、切符は買わないと」 私は焦る。こんどの電車に乗れないと予定ががらがらっと崩れてしまう。 「みちゃん、あと二分しかないよ」 「え!?」 自動販売機で適当に切符を買うことにしたが、ここにも行列ができている。ようやく順番が回ってきたが、みつこさんも私も焦りまくって冷静な判断を欠いている。 「いくら買うの!?」 「160円!」 「それじゃ、乗れないじゃん」 「じゃあ、940円」 なんで940円だったのか、自分でもわからない。その切符を買って改札を駆け抜けた。09時25分の普通電車は何番線から出るのか。駅員に訊いてみる。 「いま出ちゃったよ」 「……」 ついに電車に乗り遅れてしまった。 |
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