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走れ!バカップル列車 第16号 SL冬の湿原号 |
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三 目を覚ますと時計は三時を指していた。しばらくうとうとしていたが二度寝して、五時に起きた。朝風呂に入って目を覚ます。 窓の外は雪が降っている。庭のようなところにふつうに鹿がいて草を食べている。昨日、ノロッコ号であんなに騒いだのがアホらしくなってしまうほど、ごく自然に群れている。 みつこさんも起きてきて、出発の仕度を始める。 今回泊まった宿は季節ごとに自然体験ツアーを企画していて、冬はクロスカントリーなども実施している。私たちに参加できそうなのは早朝ワシ観察会ぐらいで、六時から七時まで行われるという。朝起きられるか心配だったが、せっかく知床に行くのだし、思い切って参加することにしたのである。 時間になったのでロビーに来てみると、参加者は私たちと同い年ぐらいのご夫婦がもう一組の四人だけだった。ガイドのお兄さんがやって来て、ミニバンに乗って出発する。 鷲を見るのだから、まさに知床といった山奥に入っていくのだろうと期待していたが、ミニバンは昨日もバスで通った国道を斜里方向へ走るばかり。まあ、そのうち山奥に入るのだろうとぼんやり海を見ていたら、オシンコシンの滝を過ぎた辺りで、 「あ、いました」 と、ガイドさんが国道にそのままミニバンを止めてしまった。 ハイハイと双眼鏡を渡されて、あっちにいますよと言われるままに覗いてみると、本当に鷲がいた。 「頭と尾っぽが白いですよね」 「はい」 「これがオジロワシです」 もう一種類見ることができるオオワシとはくちばしのカタチに大きな違いがあるという。 ガイドさんが持っている二十倍の双眼鏡はもっとよく見える。 「私にも見せて」 みんなでかわるがわる覗いてみる。 「わぁ、スゴイ!」 しばらくすると、また鳥が飛んできた。 「いま来た鷲は、オジロワシでしょうか、オオワシでしょうか」 みんなで双眼鏡を覗いてみる。 「オオワシですか」 「正解です」 ガイドさんの話を聞いているだけで、けっこう知識がつくものである。 またミニバンに乗って、さらに南のオンネベツ川の谷に移動した。こちらも国道から50メートルほど入ったくらいのところだ。 「たくさんいますね」 「みなさん、きょうはラッキーです。こんなにいるのも珍しいですよ。みんなオオワシです。向こうに一羽だけ成鳥がいますね」 鷲たちが上昇気流をうまく使って、優雅に羽ばたいて谷を渡っている。 「黒い鳥でも、カラスとはずいぶん違うなぁ」 「尾っぽが菱形になっているのが、よく見えますね。羽根を広げると扇形のようになります。これがオジロワシだと平行になるんです」 「鷲って聞くと、もっと山奥にいるかと思っていたんですが、これならバスからも見えますね」 「そうなんです。オジロワシもオオワシも海鷲といわれている種類なので、基本的には海岸近くにいて魚を捕って食べているんですよ」 七時までの予定だったが、かなり盛り上がって宿に戻るのは七時半ごろになってしまった。さんざん迷って参加した観察会だったが参加して良かったと思う。 帰る道でガイドさんが言う。 「今年は流氷の離岸が早くて、もうこのまま海明けになるんじゃないかって言われています。例年ですとまた接岸したり、一度二度と繰り返すんですが……。岸にところどころ残っている白いのは、あれ、雪じゃなくて流氷のかけらですよ」 「みちゃん、やっぱ流氷だって」 「へえ、そうなんだ」 「『流氷見た』って、帰って自慢できますよ」 バイキングの朝食をたくさん食べて九時に宿を出発。ウトロのバス乗り場まで送ってもらう。フロントの人たちもレストランの人たちもみんな親切で気持ちの良い宿だった。 バスに乗るころには雪はやんで晴れてきた。バスからは鹿も鷹も見ることができた。斜里に戻り、10時58分発釧路行き快速「しれとこ」に乗る。網走から二両編成でやって来たが、後ろの一両を切り離し、先頭のキハ54形一両が釧路に向かう。 私たちはこの快速で「SL冬の湿原号」が発車する標茶まで行く。 車内はほぼ満席である。クロスシートの席は埋まっているので、しかたなく車両の端のロングシートに座る。 定刻になり快速「しれとこ」が発車した。網走からずっとオホーツク海に沿って西に走ってきた釧網本線は、知床斜里を出たところでくるりと方向転換して南に向かう。 雲一つない快晴で、左窓にはバランスの取れた三角形の斜里岳が、さらにその左側にはぽっこりと雪を戴いた海別岳が見渡せる。線路は斜里岳の麓に沿うようにゆるやかな弧を描いているので左にはつねに斜里岳が見えている。 周囲は広大な平野で、小麦やじゃがいもの畑なのだろうが、いまは真っ白な雪原である。雪が太陽の光を反射して、じっと目を開けているのが辛いくらい眩しい。まっすぐ一列にならんだ防風林が次から次へと現れては去ってゆく。 緑という駅から次の川湯温泉までは14・5キロ離れている。その間に釧路地方と北見地方を隔てる釧北峠がある。 なだらかではあるが次第に山に入り、風景は一転して森林になる。線路は25パーミルという急勾配。運転手はエンジンをフル回転させている。右に左にカーブを繰り返しながらゆっくり山を登ってゆく。 釧北トンネルを抜けて峠を越えた。下り坂になるとスピードがまた出てきて、川湯温泉に着く。乗客を何人か降ろして発車。右にはゴツゴツとした山容の硫黄山が見えている。 車窓からは見えないが、この周辺は摩周湖、屈斜路湖、阿寒湖などが並ぶ道東屈指の観光地である。せっかくだから湖めぐりをしたいという気持ちもあるが今回は割愛する。もちろんこれらの湖にもネッシーはいないので、みつこさんも素通りすることに異存はない。 弟子屈町の中心、摩周には8分停車。降りる客は少ないが乗ってくる客が多く車内はますます混雑してくる。 快速列車は雪原をひた走る。景色はやや単調になりぼんやりしてしまう。 気がつけば標茶に着いていた。慌てて荷物をまとめて列車を降りる。 向かいのホームに釧路から着いたばかりの下り「SL冬の湿原号」が停車している。 「みちゃん、蒸気機関車だよ」 「おおおおお」 C11形機関車がシュッシュッと音を立て、煙突とシリンダーから白い煙を吐いている。そうして入れ替えのため、編成ごと釧路方向に引き上げてしまった。 |
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