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走れ!バカップル列車 第9号 東北新幹線はやてと八戸線うみねこ |
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四 久慈から宮古までは日本初の第三セクター鉄道である三陸鉄道の北リアス線が走っている。一度乗りたいのだが、今回は八戸線を優先する都合で割愛せざるを得ない。 久慈からはまた八戸線で戻ることになる。次の上り列車は「うみねこ」の折り返しで12時54分発442Dである。 目下の私たち最大の課題は久慈駅の53分の間に昼飯にありつけるかどうかということである。朝、みつこさんが「チキン弁当」を無理して食べたのも、これが心配だったからである。 待合室には立ち食いそば屋があった。いざとなったらここで済ませば良いのでとりあえず安心する。 駅舎を出る。久慈市は人口約三万七千人。このくらいの町になれば駅前に小さな食堂くらいはありそうなものである。ぐるりと見渡すといくつかあった。どれも大都会の恵まれた基準で見てしまえばさえない感じの食堂であるが、駅前ロータリーを挟んだ向かいあたりに観光客でも比較的入りやすそうな雰囲気の店があったので入ることにした。 定食五〇〇円というのを二人で食べる。おかずは焼き魚である。鯛に似ている小さな魚だが、名前は忘れてしまった。ご飯もみそ汁もついているが、おいしいといって良いのかどうか、よくわからない。 この食堂には、学生限定メニューとしてレトルトカレー三〇〇円、チキンラーメン三〇〇円というのがある。他のお客が食べているのを見かけたが、レトルトカレーはご飯に市販のレトルトカレーをかけただけだったし、チキンラーメンは市販のインスタントラーメンにお湯を注ぎ、ラップをかけた状態で出てくる。三分経ってから食べてねと店のおばちゃんが言っていた。 おなかも満たされ駅に戻る。改札が始まっていたのでホームに出て、上り「うみねこ」号に乗る。授業は午前中だけなのか、学校帰りの高校生達で車内はほぼ満員である。なんとか二人の席を確保する。 帰りは陸中八木か階上で一度列車を降りる予定である。一本列車をやり過ごせば、タブレット交換の様子や腕木式信号機をじっくり見られると考えてのことである。計画では階上で降りるつもりであったが、陸中八木の方がホームから海も眺められて景色が良いので陸中八木にしようかと思う。 列車は来た道を八戸に向かって戻ってゆく。 侍浜で生徒達がぞろぞろ降りて行くのを見て、みつこさんが言う。 「どこに家があるの?」 駅は山に挟まれて周囲に民家の気配はない。侍浜町の集落は駅から3〜4キロ離れたところにある。高校生達がどこに住んでいるのか、私にもわからない。 13時30分、陸中八木に着いた。ここで途中下車する。 「うみねこ」は4分停車。この間に下り437Dとすれ違う。 陸中八木の駅は上下本線が一本ずつ並んでいて、下り線の海側と上り線の山側にそれぞれホームが設置されている。下りホームのさらに海側にも線路があるが錆びていて使われてないようである。駅舎は上りホーム側にあって、腕木式信号機を操作するレバー小屋も上りホームにある。 プワンという警笛が聞こえて湾の向こうから下り列車が近づいてくる。列車が到着すると駅員は「信号てこ」とも呼ばれるレバーを声を掛けながらガチャンガチャンとやる。上下線の場内信号機(駅に進入して良いという信号機)のレバーを立てて「停止」(赤)にして、上下線の出発反応信号機(駅から出発して良いという信号機。出発信号機と略すことが多い)のレバーを倒して「進行」(青)にする。小学生の背丈ほどもあるレバーなので、全身を使っての作業である。 レバーを操作すると駅員はホームを走り、場内踏切を渡って下り列車とタブレットを交換。階上〜陸中八木間のタブレットを受け取り、陸中八木〜久慈間のタブレットを渡す。そして先に下り列車が出発する。 下り列車が去ると駅員は場内踏切を戻って再び上りホームを走り、下り列車から受け取ったタブレット(階上〜陸中八木間)を上り列車に渡す。発車合図をして上り列車が発車して行く。どちらの列車もいなくなると上下線の場内信号機のレバーを立てる。信号機の腕が水平になれば「停止」(赤)で、一連の作業が終了する。 駅員はタブレットの交換から信号の操作、出札案内までぜんぶ一人でこなさなければならないから、たいへんである。 さて、この駅で降りたはいいが、次の上り列車は15時22分発である。二時間近くなんにもすることがない。ホームに出て海を眺めても五分もいれば飽きてくる。下り「うみねこ」で見かけた鉄道おたくのお兄さんは、一度駅に戻って来たが再び撮影に出かけてしまった。 小さな待合室のベンチで次の列車を待つことにする。後ろのベンチでは高校生が鞄に寄りかかってぐうぐう寝ている。みつこさんも船を漕ぎ出した。 何をするでもなくぼんやりしていると、駅事務室から「チンチン」「ボンボン」という音がしてくる。タブレット閉塞の赤い箱から音が出ているようだ。この音がすると、駅員は赤い箱のところまでいき受話器を取って何やらどこかと連絡する。閉塞を開けてよいとか閉じろとかの打ち合わせをしているのだろう。 タブレットというのは直径10センチ、厚さ1センチくらいの真鍮製の円盤で、普段は赤い箱の中に収められている。閉塞が開くと赤い箱からタブレットを取り出すことができ、これを革製のキャリアに入れて列車の運転手に渡す。 受け取った運転手は、タブレットの真ん中に開いた穴の形でそのタブレットがこれから進む区間のものかどうかを確認する。たとえば階上〜陸中八木間の穴の形は「□」なので、それ以外のタブレットでは出発できない。「□」であれば出発できる。そうやって単線区間での列車の衝突を避け、安全を確保している。 さきほどから線路の上や信号機のあたりでは作業員が十人くらいなにやら工事をしている。近く信号機が腕木式から色灯式に変わるらしいのでその準備工事なのだろう。 時間が近づいたのでホームで列車を待っていたら、作業員が一人、信号のレバー小屋までやって来て、写真を撮り始めた。 「信号の工事ですか」 と尋ねると、 「そうです。六月の二十七日に変わります」 との答え。写真を撮りながら「懐かしいなぁ」とつぶやいている。そう思いながら自分が色灯化の工事をするのだから複雑な心境だろう。 旅から帰って調べてみると、八戸線の腕木式信号機は、階上が六月十五日、陸中八木が六月二十七日をもって廃止されたという。 そうこうしているうちに八戸行き上り448Dがやって来た。すでに上り場内信号機は「進行」(青)になっている。列車が到着すると駅員は場内信号機のレバーを立てて「停止」(赤)にし、出発信号機のレバーを倒して「進行」(青)にする。それが終わると運転席の横まで走っていってタブレットの交換を行う。 停車時間は45秒。下り列車とのすれ違いはない。私たちも乗り遅れないよう列車に乗り込む。 前方の「出発」信号機は、斜め45度に傾いて「進行」を示している。 「出発、進行」 駅員が合図を出すと、ディーゼルカーはエンジンを震わせて、ゆっくりと走り出す。 |
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